仕事とプライベートの境目が曖昧になっている
1996年、大手オフィス家具メーカーのスチールケース社は、マンハッタンにある本社に横1.8メートル、縦1.2メートルの大きなガラスケースを置きました。中には収穫アリと呼ばれるアリの巣があって、外から見えるようになっています。アリが「働くために生き、生きるために働く」ようすを見てもらうのが狙いでした。
ところが、残念ながら世間はここにこめられた意図に感心してくれませんでした。《ウォール・ストリート・ジャーナル》の記事は収穫アリの寿命が3、4カ月しかない点にふれ、スチールケースの社訓は「ひたすら働き、そして死ぬ」なのかと揶揄したのです。とはいえ、同社は決して間違っていたわけではないとも言えます。テクノロジーが進化した今、仕事とプライベートの境目はあいまいになっています。誰でもいつでも連絡がつくせいで、つねに仕事への責任を背負っている気がするものです。
がむしゃらに熱心にやっても良い成果にはつながらない
「ちょっと待って、なんでそんなに暗い話になるんだ……仕事熱心だって別にいいよね?」と思った方もいるかもしれません。もちろんいいんです! 仕事をしていれば、ディナーの約束を泣く泣くキャンセルして上司に頼まれたトラブル対応にあたる、なんて日も必ずあります。でも慢性的にオーバーワークを続けるのは健康によくないうえ、一見意外に思えるかもしれませんが、いい成果にもつながらないのです。
生産性は労働時間が週50時間を超えたくらいから落ちてきます。昔から「仕事の量は完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」(パーキンソンの法則)といいます。逆にいうと、仕事にかける時間を短くすれば効率を上げられるかもしれないわけです。
「ハフィントン・ポスト」の創設者、アリアナ・ハフィントンは若き日の自分を振り返ってこんなことを言っています。
「若かったころの自分にこう声をかけてやりたい。ただがむしゃらに仕事をするんじゃなくて、ときには電源をオフにして充電して、リフレッシュするほうがいい仕事ができるよ、と」
では、タフな仕事をこなしながらも気持ちのうえで適度に仕事から距離をおくには、どうすればいいのでしょうか。