人に頼みごとをする前には5秒間でも考える時間を

父のことを悪くいうつもりはありません。また父には、私が小さい頃から何事にも弱音を吐かず、愚痴も言わないような尊敬できる面もあります。

母が数年前に他界した後、心にぽっかりと穴が空いたにもかかわらず、生活のために相変わらず忙しく働きながら、趣味の水泳に没頭し、英会話サークルにも通い始めた父の姿には、たくましさすら感じています。

それに「明日までに」「今すぐやってよ」といった頼みごとは、家族だからこそできるわけで、父が家族以外の人たちに対してもこのような失礼な頼み方をしているわけではないことはわかっています。

ただ、父と娘という関係であっても、社会人になれば、それぞれの生活のリズムや事情があることを少しは考えてほしいのです。

命に関わることを除き、相手に準備や時間、労力を割かせてしまうような頼みごとについては、行動を起こす前に、5秒間でも考える時間を持ってみるとよいのではないでしょうか。

頼み方には怖いくらいに本性が出る

頼み方には、怖いくらいに本性が出ます。

「このくらいのこと、簡単じゃないか」「大したことじゃないんだから」「やってくれて当然だ」という本心がみえみえで、相手の状況も労力も一切、気にしないような頼み方では、いくら身内であっても、寝る時間を削ってまで引き受けようとは思いません。

他人であれば、なおさらです。

社内で経理部社員に聞きたいことがあったり、プレゼン資料を頼んでいた部下に追加の情報を加えてほしいときは、「月末でいつも以上に忙しいところ、本当に申し訳ないのですが……」「きっと今、手一杯だよね。そんなときに恐縮なんだけど……」などとねぎらいの言葉を加えることは必須です。

「これ、やっておいて」といわれるのと、「お昼休みの直前になってしまって本当に申し訳ないけれど、データ入力だけ今、お願いできないかな?」といわれるのとでは、印象が全く違いませんか?

仕事ですから、頼み方が横柄だからといって断ることはできないにしても、後者のように「申し訳ない」という気持ちを込められたほうが、頼まれた側としては、だいぶ気分よく作業にとりかかれます。

私たちの脳は、感情が安定しているほうが集中力を高められるので、いい頼み方をするほうが双方にとってメリットが大きいのです。