世界のどの中央銀行も、多少なりとも異次元緩和を開始してしまったので、短期の政策金利を引き上げようとするとき、伝統的金融政策時代の手法は取れない。あまりにもお金がジャブジャブだからだ。唯一の政策金利引き上げ手法は日銀当座預金(民間金融機関が日銀に持っている預金口座)の付利金利を引き上げる方法である。
しかし私が金融マン時代にはたった4~6兆円にすぎなかった日銀当座預金は今や494兆円(2020年12月末)もある。これは1%付利するだけで日銀の支出が4兆9400億円も増えることを意味する。
主として保有国債から受け取り利息が主たる収入である日銀の純利益(税引き前当期剰余金)は令和元年度では1兆3669億円にすぎないから、小幅の政策金利引き上げで途端に損の垂れ流し状態に陥る(日銀は国会での私の質問に対して支払金利が増えても保有国債からの受取利息が増えるから大丈夫だと答弁したが、嘘ツケだ。日銀の保有国債の大部分は長期固定金利で満期が来て新しい国債に入れ替わらない限り金利収入は増えない)。
バブルだとしても崩壊のリスクは当面かなり低い
また長期金利の上昇を放置すれば、494兆円という莫大な国債を保有する日銀は巨大な評価損を抱えてしまう。保有長期国債の利回りが0.257%(令和元年度)(注:この1年間でほぼ0%の長期国債を大量買いしているので、利回りは、さらにかなり低下していると思われる)と他国中央銀行に比べて著しく低い日銀にとって長期金利上昇は大ダメージなのだ。
日銀は償却原価法を採用しており、評価損は関係ないから大丈夫だと言っているが、原価法は欧米では前世紀の遺物であり、欧米機関は時価評価で日銀財務の健全性を判断する。
日銀が時価会計で大きな債務超過を抱えたら、日本に新しい中央銀行が創設されるまで、他国の金融機関の大多数は日銀との取引を中止するだろう。それは外国人が日本株や日本国債の取引から撤退するだけではなく為替の取引も不能になるということだ。
長期金利が上昇すれば日銀だけでなく、政府も支払金利が巨大になり、資金調達ができなくなる。デフォルトの危機だ。ゆえに日銀の金融引き締めは不可能だ。要は、日本では日銀が金融引き締め不能なのだから、中央銀行の金融引き締めによるバブル崩壊はまず起こりえないのだ。
バブル崩壊の最大の契機は中央銀行の金融引き締めだから、それだけを考えれば株やビットコインの現状がバブルだとしても崩壊のリスクは当面かなり低いといえる。