しかし、実際はやることばかり増えて、残業が多くなっている。生産性は向上していない。職場をIT化したのであれば、次は自分の仕事からムダを省いていかなくてはいけない。日本の企業の生産性が欧米企業に比べて低いのは、まだまだムダが多いのでしょう。
「つぶれる」と本気で心配しているのはトヨタぐらい
うん、読後の感想はいろいろある。たとえば紡績、製糸という言葉について。「木綿をより合わせて糸にすることを紡績と言い、絹の糸を作ることは製糸」。僕は初めて知った。紡績と製糸の違いは意外とみんなが知らないことじゃないかな。
そして、トヨタ自動車を作る前の時代を描いてあることも勉強になった。豊田織機、豊田紡織の話が出てくるでしょう。あの時代の日本の繊維産業の実力は世界一だったんだなとわかりました。品質のいい織機を作っていた豊田喜一郎さんが始めた自動車製造だったから、トヨタの車の品質もよくなったのでしょう。
それにしても、トヨタはベンチャー企業だったし、今もまだベンチャーの意識を保っているんじゃないかな。大企業にしては幹部は危機感にあふれている。「うちの会社はつぶれる」と本気で心配しているのはトヨタくらいのものですよ。
キャプテンも涙したワンシーン
それと、本のラストがいい。リコール問題で(豊田)章男さんがアメリカの公聴会に呼ばれていくでしょう。そして、現地の工場のアメリカ人が章男さんを応援するために公聴会へ行く。
僕はあの場面をテレビで見ていたんです。公聴会の後の販売店、工場の人との集会のシーンもテレビで見ました。あそこで、現場の人たちが泣いたし、章男さんも涙ぐんでいた。ラストにはあの場面が描かれていて、僕も思わず泣いてしまった。いい話だけれど、泣けるから困ってしまう――。
川淵さんが尊敬するドラッカーは次のようなことも言っている。これもまたトヨタ生産方式に通じる言葉だ。
「生産性向上のための最善の方法は、他人に教えさせることである。知識社会において生産性の向上をはかるには組織そのものが学ぶ組織、教える組織にならなければならない」(noteマガジン『トヨタ物語 ウーブン・シティへの道』に続く)