お金では埋まらない心の空白や寂しさを解消しようとして

「驚いたのが、亡くなった女性を尋ねてペットショップの店員さんがやってきたということです。店員さんは、子犬を自宅に届けに来たそうです。犬の代金の入金が済んでいるが、取りに来ないので直接家に届けに来たそうです。あれだけの数のペットを飼っていながら、まだ増やそうとしていたんだなとビックリしましたね」

女性は、経済的には何不自由なかった。しかし、経済的充足では埋まらない心の空白や寂しさを解消しようと、次々とペットを増やしていったのだろう。

清掃作業を始める前に手を合わせる男性
筆者撮影

私自身が取材で印象に残っているのは、犬猫7匹以上が餓死した現場だ。そこは千葉市内の築1年の新築マンションで、亡くなった50代の男性は親の遺産があり、経済的には恵まれていた。しかし、他者との関係性を示すものはなく、親族も関わりを拒絶。そのため、死後6カ月以上男性の遺体は放置されたままだった。残されたペットたちは、男性の死後、室内で餓死。ペットだけを心の支えとしてきた男性、そして飼い主亡き後に苦しみの中で死んでいったと感じると、切なくなる。

このように飼い主に社会的つながりがなく、ペットが共倒れしているケースは、現場ではありふれているのだ。

亡き後にペットを託せる相手を探しておく

寂しさや孤独から、その心を満たそうとしてペットを飼うが、そもそも飼い主が社会から切り離されている。そのため、その部屋だけ島宇宙化し、亡くなっても誰も訪ねてくることはない。結果として、本人の心の支えとなっていたペットも悲惨な結末を迎えてしまう。そんな痛ましいケースが特殊清掃の現場では後を絶たない。そこには、社会的孤立の問題が横たわっている。

それを表すのが2020年、11月に発表された第5回孤独死現状レポートだ。同レポートは、孤独死保険などの商品を提供している保険会社らでつくる少額短期保険協会が発表している。それを見ると、孤独死をめぐる現状がわかる。

レポートによると、孤独死発生から発見までの平均日数は男女ともに17日、孤独死者の平均年齢は男女ともに約61歳という。

孤独死する人は、平均寿命と比較し20歳以上若くして亡くなっている。これは、不摂生や不衛生な環境での生活など、セルフネグレクトに陥っていることも一因だろう。また、その中にはペット屋敷もかなりの数に上ると考えられる。

また、孤独死の発見者の特徴として、親族や友人、いわゆる近親者が発見者となるケースは、全体のわずか約35%でしかない。一方、警察や管理会社の職員など、職業上の関係者や他人は6割超。これは、人と人とのつながりの無さ、無縁社会の到来を表す数字ともいえる。

ペットはそんな無縁社会が進行した現代日本で個人に寄り添ってくれる、かけがえのない存在だ。その反面で、言葉を持たない彼らは、最も残酷な形で犠牲者にもなりえてしまう。取材を通じて、孤独死した後にペットが飢餓に耐えきれず、思わず飼い主を食べてしまったということもよく耳にした。そんな痛ましい現実は日々起こっているが、人目に触れずに、ひっそりと処理されている。

私自身、物心ついたときからペットが好きで、今も犬と猫を飼っている。

そんな愛すべきペットたちが非業の死を遂げないためにも、やはり日本が抱える社会的孤立の問題に国を挙げて取り組み、もっと、孤立や孤独といった問題に寄り添うことが必要ではないだろうか。また社会全体で、この問題に目を向けるべきでだと感じずにはいられないのである。

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