最先端の経済学では健全財政は古い

アベノミクスの第2の矢は、柔軟な財政政策である。前政権は消費税増税を2回も延期したので、財政ハト派の印象を持たれているが、それは誤解である。実際結果としては、日本政府のプライマリー・バランスは第2次安倍内閣中にGDP比マイナス5.5%からマイナス1.9%に改善している。

もちろんどのようなときにも、政府の無駄な支出は避けるべきである。しかし、予算収支は常にバランスが取れている必要はないというのが世界の通説に変わりつつある。特に、インフレ率がゼロに近く、金利がGDP成長率よりも低い日本では、適度の政府赤字が現在世代だけでなく将来世代のためにも有益なのである。

コロナ危機が世界の需要を減退させ、GDP成長率を低下させる今、それを一時的にしのぐには政府支出が特に必要である。均衡予算への見当違いな固定観念のために、法的用語を使えば「緊急避難」(やむを得ず危難を避ける)のための財政支出を避けることは非人道的であり、国民経済全体にも害を及ぼす。

そこで、菅首相への第2のアドバイスは、「財政健全性という時代遅れな意見を強調する論者の意見を鵜呑うのみにしないでほしい。迷ったら新任の高橋洋一内閣官房参与の意見に従ってほしい」ということになる。「健全財政」の美名の陰には、増税によって権限が拡大することを望む財務官僚の意見や、消費税の減免税率によって利益を受ける新聞業界の利害が隠れていることが多いからである。

アベノミクスの第3の矢は、将来に向けて日本の潜在的な成長力を高めるための構造改革である。この分野での進展は、安倍政権の努力にもかかわらず緩やかであったといえよう。能率化を進めようとすると一部の人びとに不利益が及ぶので、構造改革は一部の政治家、官僚、経済人から抵抗を受ける。そのため、日本には官庁のデジタル化の遅れ、公印を押す習慣、所得税で共働きを抑制する税制など時代遅れのルールが多く残っている。

コロナ危機で、会社に皆が同時にいてすべき仕事は意外に少ないことも明らかになりつつあるが、危機が過ぎた後では従来派の意見で昔の働き方が戻らないとも限らない。

はじめに述べたように庶民の立場から見ることのできる目を持つ菅首相には、改革を妨げる抵抗勢力がどこにあるかが直ちにわかるはずである。そこで、菅首相への第3のアドバイスは次のようになる。「スガノミクスでは首相自身の最も持ち味の出る構造改革と成長戦略に焦点を当ててほしい」。

(撮影=石橋素幸)
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