なぜメディアは英国版Go To Eatをそこまで批判するのか

日本と同様に英国でも、苦境にあえぐ飲食業に対する支援策としてEat Out Help Out(外食で助けよう)というキャンペーンが行われた。8月の月火水に対象の店舗で飲食した場合に限り、1回につき50%(上限10ポンド、約1400円)のクレジットが消費者に還元される仕組みであり、いわば英国版Go To Eatといえる。

日本のパブで夕食を楽しむさまざまな民族の友人
写真=iStock.com/Yue_
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このキャンペーンは8月に限定されて行われたが、9月に入って新型コロナウイルスの感染が拡大すると、英国版Go To Eatがその主因の1つであるとメディアで指摘されるようになる。制限されていた経済活動を緩和すれば感染者数が増えることは当然であり、それはあらかじめ想定されていた事態のはずだ。

それに英国でも、飲食店が混み合うのは基本的に週末の木金土だ。日曜日は多くのレストランが閉まっている。平日の週の前半にインセンティブを出されたところで、それに刺激されて飲食店に繰り出す人々がどれだけ増えたか定かではない。メディアの政府叩きのスタンスは非常に極端であったといわざるをえない。

メディアによる過剰な英国版Go To Eat批判は、要するにジョンソン首相叩きだ。新型コロナウイルスの感染拡大を受けてジョンソン政権の支持率は低空飛行が続き、浮上の気配はない。有効な感染対策が採れないばかりではなく、結局のところジョンソン政権が何ひとつとして成果を残していないことへのいら立ちが英国社会で広がっている。

バイデン勝利でジョンソン首相の面目は丸つぶれ

新型コロナウイルスの感染拡大に対しては、どの国でも有効な手立てが採れていないのが現状だ。しかし英国の場合、やはり外交面での失態が目立っており、それがジョンソン政権によるコロナ対応批判を増幅させている。最大の汚点は、相思相愛と思っていた米国のトランプ大統領からむしろ手痛い仕打ちを受けたことにある。

ジョンソン首相とその側近は、EU離脱後の成長戦略の幹として米国との間で自由貿易協定(FTA)を結ぶことを重視していた。しかしトランプ大統領は米国に偏って有利な内容をFTAに盛り込むよう主張、さらに英国市場から敵対する中国の華為(ファーウェイ)製品の排除を求めるなど一方的な要求に終始、交渉は事実上、決裂してしまった。

そのトランプ大統領は11月の米大統領選挙で敗北、表舞台から去ることになった。親EU派であるバイデン次期大統領は英国のEUとの融和を求めており、ジョンソン首相の面目は丸つぶれとなった。さらに政権内では内部分裂も生じており、首相の私的顧問として意思決定に多大な影響を与えたカミングス氏が事実上、解雇される事態となった。

有権者の支持に加えて、内外で支えを失ったジョンソン首相は文字通りの窮地に立たされている。こうした状況でジョンソン首相は、11月末をリミットにするEUとの通商交渉に臨んでいる。かつてEUの条件をのむくらいなら移行期間を年内で打ち切るほうがマシだと強弁を張ったジョンソン首相だが、その態度を維持できるだろうか。