「社会人白帯です」と営業できるか

その時、営業でよく使ったのが「社会人白帯です」という自己紹介だったと大山さんは振り返る。

「チャンピオンクラスになるとプライドがマイナスに作用して、『白帯です』みたいに1からキャリアを積み上げるのが難しいかもしれないですが、よく考えるとみんな現役時代にそのような経験を積み上げているんですよね。それでチャンピオンになっている。それをもう一回やる(笑)。もちろん大変なことではありますが、だからこそ、そこに熱量が生まれるんです。現役時代とセカンドキャリアは一緒なんですよね」

こうして一切のプライドを捨て、多くの企業に足を運ぶようになった頃には、大山さんの進むべき方向が明確になり、夢が大きく膨らみ始めていたのである。

現在、企業研修家兼トレーナーとして活動する大山さんは、現役時代さながらの強い輝きを放っている。

「ファイトネス」という格闘技とフィットネスを融合した新しいタイプのトレーニングプログラムを用いた企業研修は、従業員のメンタルヘルスに課題を抱える多くの企業から高く評価され、その導入実績は100社を超えているそうだ。さらに、研修の際には現役選手を講師として招き、セカンドキャリアを考えるきっかけを与えるなど、後進の育成にも力を注いでいる。

また、今年からは社会貢献活動にも力を注いでいる。2019年12月に行われた「HEROs AWARD 2019(日本財団主催)」で日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕さんに出会い、「アスリートが社会貢献に関わることで世界平和につながる」という言葉に感銘を受けた大山さんは、アスリートと障がいを持つ子どもをつなげるイベントを開催することを決意。

「一般社団法人You-Do協会」を設立し、今年7月と10月には、20名を超えるアスリートたちを集め、オンライン交流イベントを大成功に導いた。

引退後に一握りのトップアスリートしか輝けない流れを壊す

このように大山さんが自身の活動に現役アスリートを招くその背景には、「社会とつながり、知らない世界を知って、見える景色を広げてほしい」という思いがある。

「僕は一握りのトップアスリートだけが引退後に輝くような流れを壊したいと思っています。こんなに負け続けた僕でも本を出すことができた。これはすごく奇跡なことです。ただ、これは引退してとにかく電話をかけまくるという一歩を踏み出したことから始まっています。それがファイトネスという企業研修プログラムを生み、その取り組みが評価されたからなんです。どんなアスリートでも引退してから輝くことはできます。僕はそのことを証明したい。その競技に向けてきた熱量を武器として、ぜひ次のキャリアでも輝いてほしい。心からそう思っています」

格闘家が現役時代に養った能力が、社会に大きく役立つことを証明した大山さんは、いま、セカンドキャリアへ向けて歩み出す格闘家たちの、大きな道しるべとなっている。

大山 峻護(おおやま・しゅんご)
企業研修トレーナー
1974年生まれ。5歳より柔道を学ぶ。全日本実業個人選手権81キロ以下級優勝。2001年プロ格闘家に転身。12年ROAD FC初代ミドル級チャンピオン。14年に現役を引退。現在は格闘技を応用した研修プログラム「ファイトネス」を運営している。著書に『ビジネスエリートがやっているファイトネス』(あさ出版)がある。
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