「負けが多かった分、立ち上がった回数も人よりも少し多かった」
大山さんが「考えが甘かった。誰かが手を差し伸べてくれると思っていた」と振り返るように、周囲の支援を期待してしまうアスリートは多い。
しかし現実はそう甘くはない。2014年に引退した大山さんが最初に直面した感情は「寂しさ」だったそうだ。寂しさといっても、華やかな現役生活の余韻に浸っていた訳ではない。それまで応援してくれていた人たちの多くが、手のひらを返すように去っていったとわかったからだ。
こうして、大海原でひとり放り出されたと気づいた大山さんは、その後どのようにして、セカンドキャリアを築いたのか。その原動力となったのが、ネガティブな感情をプラスに変える力だった。
周囲が離れていったときに感じた寂しさを「絶対に現役の頃よりも輝いてやる!」と、ポジティブな感情に変えたのである。
大山さんの現役時代の戦績は、33戦14勝19敗。決して輝かしい戦績だったわけではない。しかし、「負けが多かった分、立ち上がった回数も人よりも少し多かった。(中略)そんな経験を繰り返していくうちに身につけることができたのが、ネガティブになってしまった自分を、ポジティブな思考に持っていく術でした」と、現役時代に培ったことが大きく役立ったことを、著書『ビジネスエリートがやっているファイトネス 体と心を一気に整える方法』(あさ出版)の中で語っている。
小さな行動を起こし、やるべきことを明確にしていく
とはいえ、目の前の試合に全力を注ぐということを繰り返しやっているアスリートたちは、現役時代に引退後のことなど全く考えられないというのが現実のところのようだ。当然、大山さんもそのようなアスリートの一人だった。
「現役時代は試合のことしか考えない。つまり視野が狭いわけです。むしろそれでOK。だからこそ肉体や精神を研ぎ澄ますことができるんです。でも、引退してからはそれじゃあダメなんですよね。視野を広く持ち、現役時代のときのように自分が打ち込めるもの、自分が輝けるものを見つける必要があるんです」
そこで大山さんがとった行動は「電話をかけること」だった。とにかく狭かった視野を広げようと動き出したのだ。
大山さんは学生時代に心理学の勉強をしていた時に出会った「行動は動機を強化する」という言葉を大切にしている。行動しながら、自分が行うべきことを大きく育てていくのだという。
このモットーの通り、大山さんは、自分の携帯電話に登録されていた経営者やビジネスパーソンに連絡をして、アドバイスを求めることにした。たくさんの人たちと会い、頭を下げて話を聞いた。
そしてたどり着いたのが「2015年からストレスチェック制度が義務化される」という情報だった。
自分が持つ運動プログラムが、ストレス社会で苦しむ人たちに役立つのではないかと考えた大山さんは、トレーニングウエアから慣れないスーツに着替え、企業の福利厚生としてファイトネスを導入してもらうために営業に出向くことにしたのである。