公立小学校とは天と地「私立のICT教育」には目を見張る

――中学受験界もアフターコロナの経済動向に左右されるのは間違いないですが、また逆に今年は私立中高一貫校の評価が高まったという話もあります。

【安田】そうです。その理由は、特にオンライン教育が注目されたことにあります。

ここ数年の動向として、多くの私学はICT教育への取り組みを強化してきました。コロナ以前から、パソコンやタブレット、電子黒板などのICTツールを使用し、授業を行っていた学校が多かったのです。教師も生徒もICTスキルがある程度身に付いていたということです。そのため、多少の混乱はありながらも、大多数の学校ではスムーズにオンライン授業に移行できました。

一例を挙げれば、啓明学園(昭島市)は“学びを止めない”というスローガンのもと、Zoomによるホームルーム、週1回以上の個別面談、時間割に近い形でのYouTubeでの授業、学習資料の郵送……などいろいろ組み合わせて対応しました。こうした学校は非常に多く、若手がベテランをリードして一丸となって生徒のために奮闘した姿があちこちで見られました。

学生
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休校期間中の生徒のメンタル面への配慮が行き届いている学校も

――これには、正直、驚きました。首都圏模試センターが実施した「首都圏私立中200校調査」によると、4月中にオンラインでの学校活動を再開した学校は約65%。5月の連休明けには約90%の学校がオンラインでの学校再開を果たした一方で、公立学校は自治体によって異なっており、全国的にみると3~5月までの休校中の3カ月間にオンラインでの学校活動を実現できた公立中高は2~3割であったと。公私で教育格差が広がったと感じた保護者も多かったのではないでしょうか。

私自身もこの春は、私学の先生方から直接「本校は学びを止めない!」という言葉を数多く聞き、その教育に賭ける“執念とも思える熱意”を感じました。

さらに感心したのは、授業だけではなく、休校期間中の生徒たちのメンタルにまで配慮が行き届いている学校も多かったことです。

【安田】そうですね。これも一例ですが、湘南学園(神奈川県藤沢市)では生徒・保護者の心のサポートをするべく「保健室特設サイト」を開設、大妻中野(中野区)ではカウンセラー2人に学校が携帯を貸与し、全生徒・保護者からの個別相談を受け付ける態勢を早々に整えました。

このように、非常時だからこそ、ご家庭もろとも引き受けるという“覚悟”を示してくれた私学は多かったのです。

景気が悪化するにしても、案外、中学受験人口は減らないのではないか、とみているのは、今年は今まで以上に、私学本来の“価値”を体感した保護者が増えていると感じるからです。設備や環境面でも充実の学び舎をうたっている私学は多いですが、このコロナ禍で生徒一人ひとりを大事にしている学校かどうかが顕著に表れたのではないでしょうか。

――確かに、今の保護者はある意味、わがままで(笑)、学習面もさることながら、心の教育までをも学校に任せたいとする向きがあるのは事実だと感じます。私立中高一貫校は宗教であったり、実業家の意志であったりという建学の精神に溢れているので、もともとその期待に応えようとする土壌があるというのが強みですね。