母親の刷り込みが、息子や娘たちを束縛してきた
【太田】私たちの親の世代では、「外で働くお父さんと専業主婦のお母さん」という性別役割分業が圧倒的多数だったので、そもそも息子を男性性から自由に育てようという発想自体がもちづらく、父親と同じく働いて稼げるように、というモデルが強かったんだろうと思います。
【小島】そうですね。母親たちも多くがそこに疑問をもっていなかった。私は常々、ジェンダー問題を語る上で、「女性が一方的に被害者で男性は加害者」といった単純な二項対立で考えるのはよくないと思っています。家父長制に基づく性差別的な男らしさ・女らしさの規範というミーム(文化的遺伝子)があるとすれば、これまで女性自身も無意識に、その運び手になってしまう面があった。それは自覚すべきだと思うんです。
その最大のものが男子の育て方で、私たちの親世代の母たちも、息子たちに強烈に「良き稼ぎ手であれ。身のまわりの世話は女性にさせればいい」という男性役割を刷り込んできた。よかれと思って。彼女たちがそのようにしか生きられなかったことも事実だと思うので、非難もできないのですが。
【太田】その通りですね。時代の限界というか、その世代の女性たちを非難するのは酷だとも思うけれど、結果としてはそれが息子や娘たちを強く呪縛してしまったわけですよね。同じ性別役割分業意識も、息子と娘への影響のあらわれ方はやはり違って、息子たちは素直に内面化して「男」に育つけれど、娘たちは「学業や職業での成功」と「女としての成功」というふたつの価値に引き裂かれていく。
呪縛を“アンインストール”し、子どもたちを自由にする
【小島】母たちの本音って、言ってしまえば「自分の娘には男に従属しない自立した生き方をしてほしい。でも自分の息子には、どこかの女がちゃんとお仕えしてくれないと困る」。
【太田】そうそうそう!! 受けとめる娘側には、大変な引き裂かれを生じる願望なんですよね。それも抑圧された世代の女性たちの切なる願いではあったと思いますけど……。
【小島】痛ましいけれど、私たちの世代はそれをアンインストールしていかないといけないですよね。
【太田】たぶん世代ごとの課題と宿題があって、私たちの世代は、上の世代が囚われていた呪縛をアンインストールして、次世代を自由にしてあげることが宿題なんでしょうね。そのときに、男の子の育て方が大きなポイントになるだろうと思います。
【小島】大きいですよね。
【太田】そのためには、過去に先例が乏しいことをしなければいけないし、それもまっさらな地点からではなくて、上の世代や社会に強固に根付いているものを、いちいち「これはなし」と遮断しながらなので……。あちこちの方向に、同時並行で目配りしなきゃいけないからけっこう忙しい(笑)。
【小島】そうですね。何をアンインストールするのかを明確に意識していなくてはできない。いま男性学が注目されているのも、これまで何も問題なく見えていたことが、ジェンダーの視点で見ると激しく歪んでいたとわかってきたからだと思います。その中では、男性から女性だけでなく、女性から男性に対しても、無意識に押しつけていたことがあると気づくべきフェイズに来ているんでしょうね。
【太田】私もそう思います。体感的には、ここ1、2年でそんなふうに思う人が急激に増えて、波が来ているなと。
【小島】「どっちが悪い」という糾弾合戦ではなくて、「あなたと私がこんなことになってしまったのは、何のせいなのか」という認識を共有していく必要があるんですよね。
【太田】共通の敵としての性差別構造があって、それとたたかうために男性とも手を携えていきたいのに、なぜかこちらを敵認定して撃ってくる人もいる(笑)。でも、そういう人の誤解を解くには時間とエネルギーが要る割に、得られるものも多くないという気がしているので、防御は最低限程度にして、多少は撃たれながらも次世代の育成に注力するしかないなと思っています。