感染者数が「第1波」の5倍に拡大

英国が今週木曜日から12月2日まで、2度目のロックダウンに突入する。食料品や生活必需品を扱う店以外はすべて閉鎖され、外出は食料や生活必需品の買い出し、運動、在宅勤務が難しい人の通勤などに限られる。

※なお英国では地方政府が広範な自治権を有し、本稿のロックダウンはイングランドで実施されるものを指すが、他地域(スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)も類似のロックダウンや厳しい行動制限を課している。

イギリスのパブ「The Kings Head」の前を通り過ぎる市民(2020年11月3日、ロンドン)
写真=AFP/時事通信フォト
イギリスのパブ「The Kings Head」の前を通り過ぎる市民(2020年11月3日、ロンドン)

3月23日から6月15日まで(飲食店などは7月4日まで)行われた1回目のロックダウンと違うのは、学校・大学は閉鎖せず、一部のスポーツは無観客で継続実施される点である。

英国では9月からコロナの感染者が急増し始め、現在の1日当たりの感染者数は第1波のピークの5倍という2万5000人前後まで膨らんだ。一方、1日の死者数は4月の1000人強に比べ、現在は300人程度だが、すぐ500~600人になってもおかしくない。

クリスマスという最大のイベントがやってくる

このタイミングで英国がロックダウンに踏み切る最大の理由はクリスマスだ。英国の平均的な家庭は毎月約2500ポンド(約34万2000円)を消費するが、12月は800ポンドほど増える。クリスマス休暇、団欒だんらん、プレゼントなどのために、DVD・音楽関係、本、コンピューター、化粧品類、服、酒類、食料などが売れるのだ。

欧米のキリスト教国では、クリスマスは盆と正月が一緒に来るような一年で最大のお祭りで、消費者にとっても商店にとっても重要な時期である。

筆者は金融マン時代、サウジアラビア航空向けのリース契約書の交渉をしていたとき、担当の英国人女性弁護士が「わたしはまだクリスマス・ショッピングもしてないのよ!」と会議の場から慌てて飛び出して行ったり、商社マン時代に部下の英国人女性がセーターやマフラーを机の上に並べて、「これはダッド(父)に、これはハズバンドに」と嬉しそうに話していたりした姿を思い出す。

「子や孫に会えない!」と猛反発は確実

クリスマスはまた老夫婦や独り暮らしのお年寄りが、子どもや孫に会える時期でもある。英国人(特に白人)は基本的に親と同居しない。子どもはだいたい18歳くらいになると家を出て、独り暮らしを始める。親のほうも、子どもの世話になろうとは考えず、住み慣れた自分の家で暮らす。「ナーシング・ホーム」(介護付き老人ホーム)や「ケア・ハウス」(共同生活施設)もあるが、可能な限りそういうところには入らない。

18歳以上の人間が親と同居している比率を見ると、日本は32.7パーセントだが、英国は6.8パーセント、フランスは11.4パーセント、ドイツは6.9パーセントである(「世界価値調査」2000年)。なお英・仏・独で同居しているのは、非白人(アラブ、インド、トルコ系等)が多いと思われる。

誕生日やクリスマスになると、子どもや孫が親を訪ねてくるので、老人たちはこの季節を楽しみにしている。この時期にロックダウンをやれば「子や孫に会えない!」「親に会えない!」と、政府への猛反発が起き、不満が爆発するのは確実だ(老人が独り暮らしなら、「サポート・バブル」という支援制度を利用できるが、その場合でも会えるのは同居している家族1組のみ)。