12月1日まで外出制限措置をとったフランスや、11月末まで飲食店や娯楽施設の営業を禁止したドイツも似たような商業的・社会的状況で、クリスマスのロックダウン回避の思惑があると考えられる。
国営医療サービスは機能不全に陥っている
英国が2度目のロックダウンに踏み切ったもう一つの理由は、国営医療サービスNHS(National Health Service)の機能不全の問題だ。英国の医療は高額なプライベートの医療と外国人を含めて誰でもタダで受けられるNHSの2つがあり、コロナ対策をもっぱら担っているのはNHSだ。
プライベートの医療を利用できるのは金持ちか、勤務先が従業員のためにプライベート医療保険に加入している人たちに限られる。国民の大半はNHSを利用する。ところがNHSは慢性的な財政赤字と職員不足で、重症や命にかかわる疾患でない限り、なかなか診察や手術をしてくれない。
家内の友人の香港人の女性は、白内障でNHSに行ったら「もうちょっと悪くないと手術は受けられない」と言われ、仕方がなく香港に一時帰国して手術を受けた。筆者の知人にもNHSの診察の予約がなかなか取れず、疾患が慢性化してしまった人が複数いる。2016年から2019年の3年間で、NHSの病院の廊下などで6~11時間待たされているうちに亡くなった患者数は5449人に上る。
インフルエンザ流行を前に食い止めなければ
NHSの機能不全は国民にとって重大な問題で、2016年に行われたEU離脱の是非を問う国民投票の際にも、離脱派が「EUを離脱すれば、毎週EUに払っていた3億5000万ポンド(約478億円)をNHSに回せる」とあおった。
しかし、離脱派は離脱決定後「3億5000万ポンド全部がNHSに回せるわけではない」と言い訳し、中心人物だった現首相のボリス・ジョンソンは一時雲隠れし、父親に「ボリスよ、出て来い」と呼びかけられていた。
こうしたNHSがコロナ対策の最前線に立たされたために、一般の診療はコロナ禍以前の43%しか行われていない。治療の順番待ちをしている患者数は400万人(2020年7月末時点)に達し、1年以上待っている患者も11万1000人以上いる。
そこに9月から新型コロナの感染者数急増が追い打ちをかけ、コロナによる入院患者数は約1万1000人となり、“戦争状態”だった4月の約6割にまで達した。冬のインフルエンザの季節を前に、コロナの感染者数に歯止めをかけないと、医療崩壊が確実に起きる状況である。