いち早く製品の供給に乗り出したアイリスオーヤマ

もし日本メーカーの高付加価値シフトが進んでいれば、医療機器や医療器具といった分野においても、価格の高い製品にシフトすることで国内生産体制を維持できたはずです。高い付加価値の製品を作っていた企業が製品のスペックを落とすことは簡単なので、非常事態の際には、その生産力を一般的なマスク生産に振り向けることも可能となります。

ドイツは世界屈指の工業国であり、他国と比較すると、圧倒的に自国の生産能力が高いですから、ある意味では別格といえる存在かもしれません。

本書では、日本がドイツのような国を目指すことは不可能であり、消費によって高い付加価値を実現すべきと主張してきました。しかしながら、消費主導型経済を構築することが、すべての製造業をなくしてしまうということを意味しているわけではありません。

付加価値が高く高収益な企業は、非常時には柔軟な対応が可能であり、実際、アイリスオーヤマや外資系のシャープといったメーカーは、マスク不足を解消するため、いち早く、製品の供給に乗り出しました。競争力の高い製造業であれば、生産設備の転用はそれほど難しいことではなく、非常時に大きな力を発揮するのです。

不織布マスク
写真=iStock.com/RRice1981
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他の日本企業がこうした対応ができなかったのは、企業体力に余裕がなくなっていることの裏返しといってよいでしょう。

韓国に依存する日本のアルコール輸入

政府の戦略にも大きな問題があります。

消毒用アルコールが不足した原因はやはり輸入依存度の高さが原因なのですが、問題はそれだけではありません。

調達先を多様化していれば、リスクを分散したり、急激な需要増大にも対処できますが、日本の場合、原料輸入の多くをブラジル一国に依存しており、柔軟性に欠ける体制となっていました。調達の多様化を進めていれば、ここまでの不足は発生しなかったかもしれません。

今回のアルコール不足とは直接関係しませんが、アルコールの輸入については調達ルートの問題も指摘されています。

先ほど、日本は消毒用アルコールの原料であるエタノールを、主にブラジルから輸入していると説明しましたが、ブラジルからは大型のケミカルタンカーで出荷されます。ところが、日本には大型のケミカルタンカーが接岸できる港が少ないという問題があり、輸入されるアルコールのほとんどが、最新設備が整っている韓国にいったん運ばれます。

韓国で小分けにした上で、日本に運ぶという手段が用いられているため、日本の輸入であるにもかかわらず、日本が完全にリスク管理できない状況にあるのです。何らかの事情で韓国の港湾が閉鎖されてしまうと、最悪の場合、アルコールを調達できなくなる可能性があることは否定できません。

これは政策によるところが大きく、企業だけの努力でどうにかなるものではありません。日本全体に戦略性が欠如していることが、こうした事態を招いているといってもよいでしょう。