日本企業は“失敗の評価”を確立せよ

【島村】中間管理職のマインドセットも変えないといけません。先ほど話した10%好きなことをしていいという取り組みは、ノルマもないし、別に儲けなくてもいいと言っています。とにかく若手が、「やっていいんだ、自分で行動していいんだ」って気づいて、一歩踏み出してほしい、発想の転換をしてほしいと思っています。

でも中間管理職は、「とはいえ失敗させるわけにはいかない」と考えてしまうわけです。評価制度も含め、自部門の若手の失敗が中間管理職のマイナスにならないようにしてあげないといけないと思います。

【冨山】“失敗の評価”が、日本はまだできていない。だから他責にしたがる。失敗の評価すべきことは、失敗から何を学ぶかってこと。日本企業は、失敗から未来を議論するのは得意ではないので。でもそれは、結局アサインメントの問題でもある。問題はどれだけ正しいタイミングでやめることを判断して、速やかに引けるかってことです。負けは負けとして、鮮やかな撤退をすることも大事。

【島村】みんな一生懸命やろうとするのでなかなかやめられない。頑張っちゃうのは当たり前なんです。「お前もよく頑張ったんだから、違うテーマに移ろう」と後ろから経営トップが後押ししてあげることが重要だと思いますが、玉砕するまで頑張れと言ってしまう偉い人もいるようですね。

【冨山】偉い人たちは、よせばいいのに「頑張れるかって?」本人に聞くんですよ。そしたら当然、頑張るって答えるでしょ。あれはやめたほうがいい。

セッションが行われた「NewsPicks GINZA」の会場
セッションが行われた「NewsPicks GINZA」の会場

「何のために、誰のために会社をやっているのか」

【島村】新しい事業をやるにしても、今は変化が激しい時代だから、とりあえずハウツーを考えがちです。ハウツーにばかり気を取られて、迂回路を探しているうちに、元の道も見失って遭難してしまいます。そんな時は1回、原点に戻って山全体を見直してみるといいと思います。「私たちの目的は何なのか」を改めて考え、ブレない軸をしっかり作った上でハウツーを考えるべきだと思います。

私が社長になった時、コンサルタント会社を使わず、当社の原点が何なのかを再認識するステップを起点として、経営方針を自分で作りました。今大切なのは「そもそも何のために、誰のために会社をやっているのか」という軸を確かめることです。その上で経営者として「何をすべきか」を考えました。

【冨山】今、自分たちは誰の何にどう役に立っているのかということが本質的に求められている。人様の役に立っているから、お金を払ってくれる人がいるわけで。儲かっているかどうかは、どれだけ人の役に立つことをやってきたのかということでもある。だから、本質がブレなければ、ビジネスモデルが変わってもついていけるはず。役に立つことをやらなくなっちゃったから、儲からなくなっただけでしょう。

残念ながら今は、テレビのハードだけを一生懸命作っても儲からない。コンテンツにはお金を払ってもハードには払ってくれない。でも原点は違った。昔はハードを手に入れることが本質でコンテンツは付いてきたんです。パナソニックにしても、テレビを作るとは経営理念には書かれていない。“世の中に貢献し続ける”といった言葉。テレビは手段、洗濯機も手段。その本質的な視点を若い頃から持つべき。