コロナ禍はビジネスのあり方を根本から変えつつある。ここで生き残るためにはなにが必要なのか。経営共創基盤グループ会長の冨山和彦氏は「コロナは、ある意味、ようやくやって来たチャンスである。日本企業は“経路依存性”から今こそ脱却し、“失敗の評価”を確立すべきだ」という――。
2020年10月11日、大企業若手・中堅有志による「ONE JAPAN CONFERENCE 2020」がオンライン開催された。オープニングセッションのテーマは「日本企業、変革」。登壇者は、AGC社長の島村琢哉氏、経営共創基盤グループ会長の冨山和彦氏、プロノバ社長の岡島悦子氏、早稲田大学大学院教授の入山章栄氏の4人。約2200人の視聴者の前で、日本の会社を変革するための条件について話した。

コロナは日本型経営の呪縛から脱却する最後のチャンス

早稲田大学大学院教授の入山章栄氏。ダイバーシティ経営が進まないのは、新卒一括採用や終身雇用、メンバーシップ雇用、評価制度、働き方が絡まった「経路依存性」にはまっているから。この障壁がコロナで溶けようとしているという
早稲田大学大学院教授の入山章栄氏。ダイバーシティ経営が進まないのは、新卒一括採用や終身雇用、メンバーシップ雇用、評価制度、働き方が絡まった「経路依存性」にはまっているから。この障壁がコロナで溶けようとしているという

【冨山】ようやく日本型経営の呪縛から脱却するチャンスが来ている。日本は何度も変わるチャンスがあったのに、それを逃してきた。十数年前のリーマン・ショックもそう。多くの企業が“なんとか生き残る”というフェーズで疲れて終わって。でも本来は、「経路依存性」のしくみから脱却する戦いが必要。今度こそ長期戦で取り組まなければならないわけです。

【入山】まさに「失われた30年」の最大の理由の1つが経路依存性で、ここを変えていかないと根本的には変わりません。経路依存性とは、過去の事象によって制約を受けるというもので、社会や企業はさまざまな経路を引きずっている状態。複雑に絡み合って回るようになっているから、一部を変えようと思っても無理で、全体を変えていく必要があると。

たとえば、ダイバーシティ経営をやろうと思ったら、新卒一括採用・終身雇用をやめないといけないし、メンバーシップ型雇用も当然見直すべき。評価制度も一律でいいわけがなくて。いつまでもエクセルで5段階評価をしているようではダメなわけで。

【岡島】ダイバーシティ推進をいろんな企業でやっていますが、イノベーションのために今までのバイアスを捨ててもらっています。属性の多様化だけではなく、視点の多様化、経験の多様化を進めることに、トップが覚悟を持ってやっていかないと、経路依存性が強まるだけ。

「半沢直樹」が偉くなれない会社はヤバい

AGC社長の島村琢哉氏
AGC社長の島村琢哉氏

【島村】コロナは非常に大きなインパクトがありました。環境変化といっても、普通は特定の地域や分野で起こるものですが、今回は違う。全世界で同じ環境下に企業が晒されているため、企業としては前に進んでいくしかありません。

【入山】AGCさんは、ハーバードやスタンフォードでもケースとして取り上げられているくらい、「両利きの経営」を実践している企業として世界的に認めてられていますね。そんなAGCさんは、このコロナによって危機意識が高まったのか、それとも加速したのでしょうか?

【島村】今回のコロナは、原点に戻って「私たちの仕事の目的は何なのか?」を見直す機会になりましたし、社内の考え方を大きく変えていける良いチャンスでもあると感じています。

というのも、社長になって数年は、新しい取り組みを始めても、社員からは「何をやってるんだ」と白い目で見られることが多々ありました。社内でのコミュニケーションを重ねて、3年目くらいからようやく見る目が変わってきましたが、いままでやってきたことを変えることへの抵抗感や、アレルギーが起こっていました。企業が大きければ大きいほどそれは強いと思います。

【冨山】これは「それでも地球は回っている」に近い。最初はみんな太陽が回っているって思っているわけ。でも時間が経ってようやく“腹落ち”する、やっぱり地球が回っているんだって。やっぱり積み重ねてきたものがあって、その中で効率的にやろうとするから、経路依存性にはまっちゃう。そこから出るにはリスクとストレスを伴うので。だからこの会社は、何をエンカレッジしているのか、どういう人がプロモーションされていくのかってしっかり見せていくことが大事。つまり、変革している「半沢直樹」が偉くなれないで、違う人が偉くなったらダメってことですよ。