かくいう僕も、生きるのが楽しくなってきたのは40代からでした。若いときは将来が見えない不安でつらかった。「違いがわかる男」で世に出て、仕事をいただけるようになってからも、外部の評価に一喜一憂していました。手帳のスケジュールを埋めることで世の中から認められていると信じこむうちに、自分が何をつくりたいのか、何を感じて喜びとしているのかがわからなくなってしまった。自分の軸がグラグラしていたんです。
こんなことを継続して年をとりたくないと思い、38歳のときに1年間仕事を休み、沖縄に行ったことが転機になりました。力強い大自然や人との出会いを経て、ちっぽけな自分を思い知ったのです。以前はどこにも根を張っていない恐怖感がありましたが、「根っことは自分自身なのだ」と気づいて以来、自分の軸があまり動かなくなりました。
金融危機をはじめとするこの変動期に、これまで持っていた価値観が揺らぐことはあると思います。しかし、「自分や家族にとって何が本当の幸せか」という芯の部分がしっかりしていれば、嵐が吹いても持ちこたえられるはずです。正しい生き方なんてないのだから、固定観念に縛られないで「自分という過去」をつくっていくことが大事です。それができれば、いつまでも魅力的でいられるのではないでしょうか。
(梶山寿子=構成 矢木隆一=撮影)