支援するロシアとトルコの代理戦争か
ところが、これまでの経緯を客観的にみると、アゼルバイジャンは自国で使う武器の大半をロシアに依存しているものの、ロシアはどちらかといえばアルメニア寄りとされる。一方のアゼルバイジャンは、言語・文化的に結びつきの強いトルコが支持を固めている。
トルコのエルドアン大統領は、アゼルバイジャンとの関係について「ひとつの民、ふたつの国家」と訴え、連帯を強化するとの考えを改めて打ち出した。歴史をなぞると、20世紀の初めにオスマン帝国によるアルメニア人150万人の「虐殺」が起きており、現在もなお、アルメニア人にとってトルコを含むテュルク系民族は全く相入れない「許しがたい人々」と映る。
対して、トルコのエルドアン大統領は「オスマン帝国復権を夢見ている」とされ、隣国の敵・アルメニアとその背後にいるロシアの存在は、文字通り目の上のタンコブとなっている。
ロシアがアルメニアへ肩入れしていることもあり、2国の代理戦争的な雰囲気も見え始めた。
こうした状況を受け、アゼルバイジャンのアリエフ大統領は10月5日、「アルメニアは、アゼルバイジャンの領土を攻撃し、ロシアを戦闘に引き込もうとしている」と言明する一方、トルコが高性能の武装無人機でアゼルバイジャンへの支援したおかげで犠牲者数が抑えられたとし、「トルコが我々を力づけている」と感謝の意を述べている。
資源輸送ルートが「ロシアとしては面白くない」?
アゼルバイジャンやアルメニアがあるこの南コーカサス地方は、石油や天然ガスの重要輸送路に当たる。
ロシアや中央アジアの資源をめぐっては、血なまぐさい紛争が繰り広げられてきた。欧州の各国、特に中・東欧諸国は歴史的にロシアからウクライナを経由するパイプラインで輸送される天然ガスで暖房などの燃料を賄ってきた。ところが、ロシアとウクライナはかつての友好関係とはほど遠く、ひいてはクリミア半島問題で露呈したように互いに相いれない関係となってしまった。
そこで、資源輸送のロシア依存から逃れるため、欧州各国が期待を寄せたのは、アゼルバイジャンやカスピ海の海底から採れる原油と天然ガスを同国からトルコ経由で欧州に運ぶことだった。BTCパイプラインという送油管建設計画が持ち上がり、すでに2006年から稼働している。
かようにアゼルバイジャンとアルメニアが(さらに、アルメニアとトルコも同様に)仲違いする中、遠回りでも隣国のジョージア経由を採るしかないという状況に晒されたものの、ともあれ完成した。
ただ、資源外交に詳しいアナリストによると、このルートによる油ガス輸送が安定化するのは「ロシアとしては面白くない」という説があるという。これがまさにアゼルバイジャンの国力をそぐために、アルメニアを前面に立ててナゴルノ・カラバフを介してもめ事を起こしている遠因ではないか、という見方ができるというわけだ。