「電力不足はエネルギー施策を見直す好機」。前東大総長の小宮山氏が説く新生日本をつくるための具体的なプランとは。
<strong>三菱総合研究所理事長 小宮山 宏</strong>●1944年、栃木県生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。2005年~09年、東大総長を務める。09年より現職。自宅「小宮山エコハウス」にて太陽電池、二重ガラス等を取り入れ、光熱費を81%削減したという。
三菱総合研究所理事長 小宮山 宏●1944年、栃木県生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。2005年~09年、東大総長を務める。09年より現職。自宅「小宮山エコハウス」にて太陽電池、二重ガラス等を取り入れ、光熱費を81%削減したという。

「コンクリートから人へ」という公約を掲げて勝利した民主党政権下、万全だったはずのコンクリート製巨大防波堤が津波で簡単に破壊され、甚大な被害をもたらしたのは皮肉なことである。その反動か、このまま確たる意思も働かず復興が進められれば、ほとんどの予算がコンクリートに投じられることになるだろう。その場合、総延長、高さともに最長の田老防波堤をつくり直すだけで1200億円、さらに防波力の高いものにすると5000億円かかるという。陸の上だけではない。海岸や港にも防潮堤が必要になるだろうが、その手当が必要な港の数たるや、10や20ではきかない。

コンクリートへの投資は確かにわかりやすい。目に見える建造物によって災害に対する不安が消えるし、雇用も生まれるからだ。が、私はあえて問いたい。それは単なる復旧であって、真の復興にはつながらないのではないか、と。

私が思い描く復興のイメージは、現在日本が抱える数々の課題が解決された社会が、東北の地に忽然と現れることだ。課題とは、人口減少であり、超高齢化である。そして環境問題、不安定な雇用である。

私たちは、そういった課題が解決された理想社会を「プラチナ社会」と名づけた。高齢者にやさしい、エコでバリアフリーな地域に、雇用の不安なく誰もが安心して暮らせる社会である。

そこでは情報通信技術がカギを握る。具体的には、専門医不足を補うための遠隔医療や、ドア・ツー・ドアで乗り合い型のオンデマンド・バス、電力需要をリアルタイムで把握しながら需給のバランスを図るスマートグリッドなどである。すでに私たちは全国100の自治体と組み、「プラチナ構想ネットワーク」を推進している。その立場からいえば、コンクリートへの投資はせめて半分にし、残りをプラチナ社会をつくるための投資に回してほしい。

プラチナ社会の構築はエネルギーも含めた資源問題の解決とも密接に関係している。日本はエネルギー資源(その多くは石油などの化石燃料)の80%あまりを輸入に頼っている。日本に埋蔵していないものだから仕方ないが、解せないのは木材も70%を輸入していることである。森林面積が国土の70%という国が大量の木材を輸入しなければならないのは、林業が衰退しているからだ。

プラチナ構想ネットワークに参加している自治体のひとつに山形県最上町がある。ここにも立派な森林があるが、国有林と民有林が複雑に入り組んでいて、近代的な林業を成立させるのが困難という。そうはいっても、高品質の木材市場を狙えば復活の道はあるはずなのだ。

林業が活性化すると、間伐材や端材を使ったバイオマス(生物資源)発電が期待できる。最初から木材による発電を狙っても採算が合わないが、林業の副次的なものであれば可能だ。そうすると、林業の復活と自然エネルギーへの転換という一石二鳥が実現する。

建築家の安藤忠雄さんによると、ある種の集成材の強度は鉄より強いそうだ。そうした材料を使って学校や病院などの公共施設を新築してはどうだろう。「コンクリートから木へ」というわけである。東北地方を日本一の太陽電池製造地帯にするという案も出ている。ピンチをチャンスに変える発想が重要だ。

(荻野進介=構成 尾関裕士=撮影)