「自分は自信のない、しがない中小企業経営者だった」

「しかし、単なる地域エリアの課題解決から、全国に横展開して、日本全体の課題を解決するビジネスモデルにスケールさせていくためには、“筋がいい”というだけでは難しい。事業の成長段階で、出口戦略を一緒に考えたり、必要なノウハウや機会を提供したり、いい意味で、お節介な人に恵まれることもまた、起業家成功の条件だ。一方で、福井のような地方では、そういった支援人材が不足しているため、起業後は孤独になりがちだ。一人ですべてを抱え込むことにより視野が狭くなり、ビジネスが小さくまとまりがちになる。その点、西村さんの場合は、起業の段階でふくい産業支援センターの伴走支援を受ける環境に恵まれた点は、かなり大きな分岐点となったに違いない」と高原氏は話す。

実際、官民ファンドから資金調達を実施した際に、西村社長はこう語っている。

「自分は本当に自分に自信のない、しがない地方の中小企業経営者にすぎなかった。自信がもてないうちから踏み出すなんてできない性格だったのに、猛烈なベンチャー支援を受けて無理やり高速道路に乗せられたような気持ちだった。しんどいと感じる時も正直あったが、あのくらいの関わりがなかったら今の自分はなかったと思う」

フィッシュパスの西村成弘社長
写真=筆者提供
フィッシュパスの西村成弘社長

「素直さ」と「行動力」で応援者を巻き込んだ

地元愛から出発したビジネスアイデアは、地域をよくすることに意識が集中するため、そこから全国に横展開してスケールさせていこうという考えを最初からもっている人の方がまれだ。加えて、福井のような地方では、「補助金を活用しながら、赤字にならない程度に地域おこしができればそれでいい」と、あくまでボランティアベースで考えている人が多数を占める。

西村社長のときも最初はそうだった。子どもの頃から慣れ親しんでいる竹田川の荒廃に心を痛め、地域の情報発信を通じて竹田川地区を盛り上げたいという発想からスタートしている。

しかし、問題を深く考察していくうちに、竹田川の荒廃は、川の環境保全を担う内水面漁協の経営不振が大きな要因であることがわかり、この問題を本気で解決しようとすると、小手先の地域おこしだけは難しいということに気がついた。そこで、現場の声をヒントにして、遊漁券のオンライン販売というアイデアにたどり着き、本格的に事業化したという経緯がある。起業後は、トライ&エラーを繰り返しながらシステムを拡充していき、今では日本の川・地方の未来を守るために上場を目指す成長企業へと変貌を遂げた。

西村社長は、何も最初から完璧なビジネスアイデアがあったわけでも、IT分野で特別な才能があったわけでもない。人からのアドバイスを取り入れる素直さと、並外れた行動力。そしてなにより、西村社長の事業に対する情熱が応援者を巻き込み、適切なタイミングで必要な支援を受けられたからこそ、現在のフィッシュパスの成長の土台を作り上げることができたのだ。