地方発のベンチャーは、全国規模のビジネスを目指しているとは限らない。しかし、そのままでは「単なる地域おこし」で終わってしまう。福井でベンチャー支援をする岡田留理氏は「地域の枠にとらわれてしまうのはもったいない。経営者にはビジネス拡大に必要な3つの要素を知ってほしい」という——。
アイデアとスタートアップのコンセプト
写真=iStock.com/peshkov
※写真はイメージです

最初は「単なる地域おこし」のつもりだった

2020年8月、福井県初の官民ファンド1号案件が誕生した。地方の課題解決型ビジネスモデルを扱うITベンチャーとして2016年10月に創業した、フィッシュパスだ。代表の西村成弘氏は、もともと飲食店5店舗を経営する中小企業の社長。IT知識ゼロの状態から、40歳でITベンチャーを起業した変わり種だ。当センターでは、起業当初から継続支援している。

「はじめからビジネスを大きくしようと考えていたわけではない。最初は、地元の竹田川周辺の地域おこしができればそれでいいくらいの、軽い気持ちだった。いつでも事業をやめられるよう、人も雇わず小さくこじんまりとするつもりだったのが、福井ベンチャーピッチへの登壇などのベンチャー支援を受けていく中で、自分のビジネスモデルの成長可能性を感じ取り、一気に舵を切った」とふり返る。

2020年8月には福井県副知事を表敬訪問し、「2025年を目標に上場を目指す」と語った西村社長。単なる地域おこしの発想から、日本の川・地方の未来を変えようと奮起するに至るまでには、どんな分岐点があったのだろうか。また、フィッシュパスのようなベンチャーが、地方から次々と誕生していかないのはなぜだろうか。フィッシュパスの事例から読み解いていきたい。

24時間いつでも「遊漁券」を買えるアプリを開発

川で釣りをするためには「遊漁券」の購入が必要なことをご存じだろうか。日本の河川は全国830の内水面漁業協同組合(以下、「内水面漁協」)によって管理されており、この遊漁券の売り上げが、漁協がアユの稚魚を放流したり、漁場の整備をしたりする費用に使われている。しかし今、内水面漁協の多くが、経営不振により苦境に立たされている。経営不振の理由の1つが、「遊漁券」の未購入問題だ。

しかし釣り人は、何も最初から無許可で釣りをしようと思っているわけではない。遊漁券を購入できる場所や購入できる時間帯に制限があるため、遊漁券を買いたくても買えず、結果的に遊漁券の売り上げが落ちている状況だ。

そこでフィッシュパスは、24時間いつでも遊漁券が購入できるスマートフォン・タブレット端末向けのアプリ「FISH PASS」を開発し、2017年6月に提供を開始した。アプリ経由の購入であっても、販売はあくまで地元販売店であり、既存の販売店の売り上げとなる。フィッシュパスと提携しアプリを導入した内水面漁協の1つは、遊漁券の売り上げが前年比1.5倍に増加した。

フィッシュパスのアプリ画面
写真=筆者提供
フィッシュパスのアプリ画面

さらには「FISH PASS」は、GPSを使ってアプリを利用している釣り人の位置情報を得ることで、漁場の監視業務や河川整備の効率化も実現。安全面では、損保ジャパン日本興亜と提携し、釣り人向け保険である「フィッシュパス保険」も提供している。2020年8月現在は13府県の80漁協と提携し、利用者は約4万人。4年後には500の漁協との提携を目指している。