「中国の大学なら簡単に採用」という状況ではない

第二の「中国の採用ペースの継続」については、2018年における中国の大学教員数は約167万人と2010年比で約25%程度伸びています(「中国産業情報ネット」より)。少子化が進む中でも大学進学率は伸び続けており、それを受けての流れと思われますが、いわゆる研究大学における大学教員数の増加は特に顕著です。

たとえば私の所属する復旦大学生命科学学院の場合、私が異動した2015年とその5年前の2010年当時の5年間での教授クラスの教員数が約5割増加しています。また、そういった既存の学院における採用増に加え、大学が新設される場合や既存の大学内に新しく研究所が新設される場合は、それらをさらに上回るスケールで多くの教員が新規採用されます。

それらの教員採用公募は、『Nature』誌や『Science』誌といった英文科学誌で告知されることも多く、外国人の目に入る機会も増えていると思います。そういった大量採用や国際告知の流れの中、中国人に限らず、外国人の応募が少しずつ増えているのでしょう。

ただし、私の学院での人事採用プロセスや他大学のケースをみていると、「外国人だから積極的に採用される」といった外国人にとって「おいしい」話はあまりなく、「中国人も外国人もいい人がいれば採用する」くらいのノリです。むしろ、昨今の中国における研究レベルの上昇に伴い、採用される研究者のレベルも上昇しており、つまり選考ラインが上がっています。「中国の大学で採用が増えているから中国の大学なら簡単に採用される」という状況ではありません。

日本の「基礎研究」の環境が悪化している

第三の「日本の研究環境の悪化」は深刻な問題です。2004年に実施された国立大学の法人化の影響で、国立大学の収入の要である国からの運営交付金はこれまでに2000億円以上も削減されました。その結果、「定年退職した教授の後任人事が行われない」など、さまざまな形での実質的な教員採用減が進行しています(「国立33大学で定年退職者の補充を凍結 新潟大は人事凍結でゼミ解散」The PAGE)。

これは大学以外での研究の場が限られがちな、基礎的な分野の研究者が特に影響を受けるものです。実際、中国にきている日本人研究者をみると、理工系の中でも「理学」側、特に天文のような基礎研究の中でもさらに基礎といえる分野の研究者が多いように思います。