石川直樹
1977年、東京生まれ。早稲田大学第二文学科卒、東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。高校時代のインド一人旅を皮切りに旅を始める。2000年北極から南極まで人力踏破する「POLE TO POLE」参加。01年当時の世界最年少世界七大陸最高峰登頂達成。04年熱気球で太平洋横断に挑戦。そのルポルタージュ『最後の冒険家』など著書・写真集多数、多くの受賞歴を誇る。現在、瀬戸内国際芸術祭にて新作を展示、10月19日より東京都現代美術館「トランスフォーメーション」展参加予定。
“星の航海術”という、ミクロネシアに伝わる、近代計器を一切使わない伝統航海術があるんです。海図やコンパスを持たず、星の光とあらゆる自然現象を頼りにカヌーを操り、体ひとつで海を渡っていく。人類の叡智といってもいい奇跡的な技術です。すっかり魅了されて、その継承者に10年ほど前に弟子入りしました。
実際に“星の航海術”を操る航海者と、サイパンからミクロネシアの島まで渡ったことがあります。これだけ交通が発達した今でも、日本から普通に行けば、飛行機と船を乗り継いで10日はかかる孤島でした。このミクロネシアの島がすごかったですね、食が。
そこらの野犬の丸焼きが出てきたり、亀を食べたり。亀は小笠原などでも食べられていますが、普通においしかった。でも犬は……ワイルドな味でした!(笑)。
アラスカのユーコン川を川下りしていたときのイクラ丼も忘れられません。ずっとインスタントラーメンを食べていたんですが、旅の終盤に先住民の人にイクラをもらったんです。それを自分で味醂に漬けて、丼にしたのがすごくおいしくて。
旅先でおなかを壊したときは、絶食してコーラだけ飲んで治します。いつもその方法。僕は食べられるだけで幸せを感じてしまうんですね。生きるために食べるというのが前提にあって、旨いまずいより、おなかが空いたときにちゃんと食べられる、それだけで嬉しいんです。
今は狩猟に興味があって、各地のマタギ文化が残る土地に通っています。狩猟の技術があれば、どこでも生きていけるじゃないですか。僕自身は罠猟をやってみたい。鉄砲を使うよりも、より動物たちとの知恵比べみたいな側面が強いですから。
自分で食材を得るというのはどういうことか、そのことを最近よく考えています。だから、狩猟や農業に興味がある。そうした取材過程で、東京の「六本木農園」を知りました。農家から直接野菜を買って、メニュー一つ見てもポリシーを感じます。
沖縄は昔から好きで、ぼくにとっては本当に落ち着ける場所。「rat&sheep」には来るたびに必ず立ち寄っています。店主のタイラジュンさん自身も写真家で、沖縄の美術関係の人たちが集まってくるお店でもあるんです。料理もおいしいですよ。
チョモランマとか南極、北極とか、そういう場所へ行くことが冒険だと強調されがちですが、僕は、山の上でも東京でも沖縄でも「新しい世界と出合う」という意味では、どこにでも冒険は存在すると思うんです。ビジネスマンの人は、日々大冒険ですよね。会社や部下を背負いながら、日々新しい世界と向き合っている。僕なんかがプラプラ旅しているより、よっぽど大冒険ですよ、絶対。