今回は男性に多い、下痢が続くタイプの「過敏性腸症候群」を取り上げる。これは血液検査や便検査などを行い、細菌性・ウイルス性の腸炎、潰瘍性大腸炎、大腸がんなどの病気がないにもかかわらず、下痢や腹痛、下腹部不快感の症状が持続するもの。消化管の運動異常や精神的なストレス、生活習慣が関係するとされる。また急性の感染症腸炎をきっかけに繰り返し、過敏性腸症候群に移行することもある。

この下痢の背景には、「脳腸相関」が深く関わる。ストレスが続くと下痢が起きるように、脳からの指令で腸は動くが、反対に腸からも脳に影響を与えることが近年わかってきた。腸内環境が悪いと脳内のアセチルコリン(副交感神経)が減少し、認知症を引き起こすという論文もある。

東京医科歯科大学臨床教授で秋葉原駅クリニック院長の大和田潔医師はこう話す。

「お腹がぐるぐるしてくると、痛みや不快感が生まれます。その腹部症状の悪化が脳のストレスを増すという、悪循環に陥ります。脳が指令を出して腸が動く。一方で腸の動きを脳が感知する。そのフィードバックが過剰になり、不安定になった状態といえるでしょう。本来の腸は自律的に適切な“緩と急の働き”ができるのですが、繰り返し不調に陥るのが過敏性腸症候群です」

そのため、脳と腸の“悪循環を断ち切る”ことが必要なのだ。

「脳腸相関は意識外で行われているので、自分ではどうにもできないことがほとんど。上司から何か言われるたびにトイレに行くような人も、自分は心が弱いと考えることはやめましょう。“脳から腸への刺激”が強い体質のために起こること。もちろん逆もあります。繰り返してしまうなら、つらいときに服薬し、快適に仕事ができる環境に整えたほうがいいでしょう。

薬はいくつかあって、下痢型の人によく使われるのはイリボー(一般名・ラモセトロン塩酸塩)。脳から腸へはセロトニンという神経伝達物質が介在しますが、腸の神経に存在するセロトニン受容体を遮断することで、大腸の動きが抑制されます」(大和田医師)

原因に合わせて選びたい、作用が異なる多様な薬

消化管運動調律剤と呼ばれるセレキノン錠(一般名・トリメブチン マイレン酸塩)も、有効率が高くよく使われる薬だ。横浜薬科大学特別招聘教授で修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治医師は「セレキノン錠は二面性の働きがある、漢方的な薬」と評する。

「低用量ではアセチルコリンの働きを強めて、腸の蠕動運動を盛んにし、便通を促すほうに働きます。逆に高用量では蠕動運動を抑制します。用量によって変わる面白い薬で、下痢止めではなく調整薬なんです」