完璧に対策できなくても、やれるだけやる
職場でこうしたトラブルを防ぐにはどうすればいいのか。私は、①社内ルールを決める、②社内ルールを周知する、③研修をする、という3つのポイントの徹底が重要だと考えています。
まず参考にしてほしいのは、厚生労働省が発表している「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」の活用です。
そこには身体的距離の確保やマスクの着用、手洗いなど感染防止のための基本的な対策をはじめとしたさまざまな感染症拡大防止のための対策が記載されています。
もちろん、このチェックリストの項目をすべて実行、クリアできればいいのですが、以下3つのように、業種や職種、職場環境によっては実行できないものもあります。
テレワークができない職種
機密情報を扱う職種などはテレワークができない社員がいます。
だからと言って、できないなりの対策を講じる必要があるはずです。
例えば、社内にいる者同士の打ち合わせであってもオンライン化することや、通勤ラッシュが存在する地域であれば時差通勤を導入する、ソーシャルディスタンスを確保した配置にするなど、できる範囲で対策することが肝要です。
距離を確保するスペースがない職場
テレワークができない、スペース的に距離の確保ができないという職場もあります。このケースでもやはりできる限りの対策は講じるべきです。
距離が確保できないのであれば、仕切り板で飛沫防止に努める、社員全員のフェイスガードを購入するなどが挙げられます。フェイスガードが手に入らない状況であればクリアファイルで代替するなど何らかの対策が必要でしょう。
3密をどうしても回避できない職場
徹底的に換気をする、会話を抑制する、日々の健康管理を徹底するなど、より具体的な対策を講じる必要があります。
必要に応じて行政に相談し指導を仰ぐことも有効でしょう。すべてを完璧にできなくとも「やれるだけやる」という姿勢が重要になります。なぜなら、そこには使用者に求められる安全配慮義務があるからです。
安全配慮義務を果たさないと、民事訴訟に発展することも
安全配慮義務とは、労働契約法第5条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。
一般的に労働者は使用者に指定された場所で、使用者の用意した設備や器具等を使って仕事をすることから、契約書にわざわざ記載していなくとも信義則上、使用者は労働者を危険から保護するよう安全配慮義務を負っているものとされています。
なお、「生命、身体等の安全」には心身の健康も含まれており、「必要な配慮」とは労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて求められるものです。
すなわち、コロナという状況に応じて必要な配慮を求められるともいえるでしょう。
そして、会社がこの安全配慮義務を果たしていない状況下でコロナが発生した場合には、労働者等から慰謝料や損害賠償を求める民事訴訟に発展することもあり得るのです。
つまり、労働者からすると「対策してくれてありがとう」というよりは「義務を果たしてほしい」という意味合いが強くなってきています。
なお、詳細は記しませんが、大前提として産業医や衛生管理者の選任、衛生委員会の開催、36協定の締結とその順守など、法令上必要と明記されている義務は果たしていなければなりません。