オフィス街の喧騒は、二度と戻らないだろう
新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令されたのは2020年4月7日のことだ。この数カ月で社会は一変した。去年までの街角の映像を見ると、大勢の人が入り乱れた雑踏のなか、ほとんどだれもマスクを着用していない。その光景にむしろ違和感や非現実感を覚えてしまうほど、私たちはいまの「新しい生活様式」にすっかり順応してしまっている。
「新しい生活様式」のひとつとして、市民社会で一気に普及していったのが「テレワーク(リモートワーク)」であった。大手企業を中心として、自宅から仕事を行う新しい働き方が広まっていった。いままで毎朝、満員電車にすし詰めになって出社していた日々から解放された人にとってみれば、この新たなワークスタイルは幸いだったことだろう。
物理的に他者と密接な距離で長時間過ごさなければならない環境から解放されることで、感染リスクも下げられる。そればかりか、堅苦しいスーツに身を包む必要もなければ、休憩時間にはだれの目をはばかることもなく自室のベッドに飛び込んでゴロゴロしてもかまわない。通勤時間がなくなり残業時間も減り、自分の時間がたっぷりと持てる。人によっては一石二鳥、いや三鳥も四鳥もあったかもしれない。
すべての稼働日がリモートではさすがに業務に支障が出るかもしれないが、しかし「週の数日のみ出社し、あとはすべて在宅ワーク対応可能」といった柔軟な方向性を打ち出す企業も増えてきている。昼夜を問わずスーツ姿のサラリーマンでにぎわっていたあのオフィス街の喧騒は、良くも悪くもおそらくもう二度と戻ってこないだろう。
リモートワークでQOLが上がっているのは少数派
しかし、すべての人がこうした「新しいワークスタイル」を与えられたわけではない。「リモートワークが徹底されてQOLが上昇し、感染リスクが下がり、なおかつ生活基盤もこれまでどおり安定している人」は、むしろ全体から見れば少数派である。この新たな生活様式・ワークスタイルによって生じたツケは、リモートワークもできず感染リスクに曝されながら生活基盤がさらに不安定になる非正規雇用の人びとに集中している。
東京新聞『非正規社員襲うテレワーク差別 妊娠、持病ですら認められず』(2020年5月29日)より引用
また今回のパンデミックで注目を集めた「エッセンシャルワーカー」とされる人びともそうである。医療従事者、介護職員、スーパーの店員など、私たちの社会生活に欠かせない基本的なインフラを支える彼らは、しかし必ずしも好待遇であるとはいえず、文字どおり「割に合わない」役割を担わされている現状がある。