100年に一度とも言われる金融危機が引き金となって、日本でも尋常ではない不景気の風が吹き荒れている。個人の力ではもうどうしようもないよ、と感じる局面に直面するのもしばしばだろう。
こんな時には、どのような心持ちで乗り切れば良いのだろう。この点で、ユニークなヒントを授けてくれるのが『列子』という古典なのだ。
これはもともと老荘思想の一翼を担うもので、大きな特徴として、当時の虐げられていた庶民の立場、いわば「下から目線」の生き残りの術を考察している点が挙げられる。
まずはその中でも、極めつきの過激な教えを、ご紹介しよう。
聖人の孔子が、道を歩いていると、道端で、とても愉快そうに過ごしている老人に出会った。「なぜ、そんなに楽しそうなんですか」と孔子が尋ねたところ、その老人は、こんな答えを口にした。
「天は万物を生み出すが、貴いのは人間だけだ。わしはその、人間として生まれてきた。これが一つ目の楽しみじゃ。
男女でいえば、男の方が貴いとされている。そしてわしはその男だ。これが二つ目の楽しみじゃ。
幼い内に亡くなってしまう人もいるのに、わしはもう90だ。これが三つ目の楽しみじゃ」(天瑞篇、著者訳)
現代であればポリティカル・コレクトネスに確実に引っかかる四字熟語、「男尊女卑」の出典部分になる。
「男尊女卑」といえば、一般的には儒教思想を思い浮かべるのかもしれないが、意外にも老荘思想の方が初出になっている。おそらく、中国古代の素朴な父系社会がそのまま反映された言葉だったのだろう。
筆者はこの「男尊女卑」によって逆境期を乗り切ろう、などと主張する気は毛頭ない。そうではなく、この老人がどんな気持ちで、この答えを口にしたのかという心象風景を探ってみると、実に面白い光景が見えてくるのだ。
老人が誇りにしていたのは、
「人だから偉い」
「男だから偉い」
「90まで生きてラッキー」
という3つの要素だった。しかし、これを裏から読むと、次のようになる。