認知症が治癒することはないと認識し、事実を受け止めよ
認知症のお年寄りを介護するうえで難しいのは、それがわかりやすく症状の悪化していく病気ではないことです。
認知症に特有の「見当識障害」では、「時間と場所」と自分との関係がわからなくなるという症状が現れます。進行すると物忘れがひどくなったり、簡単な計算ができなくなったりと症状が深まり、ついには徘徊などの「問題行動」につながっていく。
しかし初期の認知症では、兆候が1度は現れても、後の半年間は全く症状が出ない、といったことがよくあるのです。認知症にはアルツハイマー型、脳血管性などいくつかの種類がありますが、いずれにせよ病院で診察を受けた時点では、すでに中期の認知症になっていることがほとんどでしょう。
自分の親が認知症にかかったとき、家族はまずその事実を受け入れなければなりません。言葉で言うのは簡単ですが、家族心情としてはとても難しい。現在の医療では認知症が治癒することはありません。ところが認知症のお年寄りと話していると、「この人が本当に認知症なのか」と思うほど受け答えがちゃんとしていることがあります。記憶が抜けている個所に嘘を入れて話す症状を「詐話」と言いますが、普段は一緒に暮らしていない親戚が電話で話した程度では、その嘘を見破ることは難しいはず。「あの程度ならまだまだ大丈夫でしょう」と言われ、周囲の認識とのギャップに介護の当事者が苦しむケースが多いのもそのためです。
当の介護者もまた、日によって「治ったのではないか」と思うほどしっかりしている様子を見ていると、「症状を良くしたい」「どうにかして治したい」と思って病院を転々としてしまいがちです。親が認知症にかかったという事実を受け入れるまでに、1年間はかかるのが普通なのです。
認知症は経過が長く、亡くなるまでに平均で6年かかると言われています。最近ではさらに予後の年数が延びています。認知症と診断された場合、その後の介護の方針を長期的に考えなければなりません。誰が介護をするのか、ヘルパーさんをどう利用するのか、介護施設へ入居させるべきか……。そのためには、現在の症状が認知症の経過全体のどこに位置しているのかを、家族としての心情を横に置いて、冷静にとらえる姿勢が大切です。
母親や父親に認知症の症状が現れたら、まず専門医の診断を受けましょう。診断では、CT(コンピュータ断層撮影法)やMRI(磁気共鳴画像法)により、脳の輪切りの形を検査します。大学病院や総合病院の神経内科や精神科を訪ねてみてください。
ただし、介護サービスは地域によって差があるため、大きな病院の医者に相談してもなかなか情報は手に入らないのが現状です。介護施設や費用などの情報収集については、自治体や在宅専門の医者、ヘルパーさんなど、自分の暮らす地域のネットワークの中で行うのがいいでしょう。