不動産価格の高騰とマンションを保有する政府高官

不動産価格の高騰に関する政府高官の姿勢からも、自らに都合よくふるまう心理が確認できる。文政権が発足した2017年5月からの3年間でソウルのマンション価格は平均で5割程度値上がりした。

各種データを見ると、不動産価格の高騰が、働き手世代の将来不安を高めていることが示唆される。韓国統計庁が実施した「家計の資金繰りと生活水準の調査(2019年)」によると、家計の保有資産価額は平均432百万ウォン(邦貨換算額で約3900万円)だ。そのうち住宅など不動産が75%を占める。家計にとって住宅取得の負担は大きい。不動産価格上昇は家計の負担(不動産の購入や賃貸の費用)を増大させる。

また、IMFの報告では、50代以上の世代に資産が集中し20~40代との世代間格差が拡大している。それに加えて、韓国銀行は「金融安定報告書」の中で、リタイア後の生活維持に借り入れへの依存度が高まるとの見通しを示している。

住宅取得のハードルが高まるだけでなく、借り入れに頼って人生を送らなければならない状況下、30代、40代を中心に将来への不安は高まる。

韓国の世論調査会社リアルメーターによると、8月7日時点で文大統領の支持率は43.9%と前週から2.5ポイント下落した。30代と40代の支持率低下が顕著であることはそうした不安の表れだ。雇用環境の悪化も人々の不安を高める。

しかし、洪楠基経済副首相兼企画財政相の発言は、政権が事実を直視していないことを示している。それに加えて、不動産価格の高騰に世論が不安・不満を募らせる中で、政府高官は複数のマンションを保有して資産を運用した。

そうした心理は強く、盧英敏(ノ・ヨンミン)秘書室長は政府高官に自宅以外の住宅を売却するよう指示した一方で、資産価値の高いソウルの物件を保有し続けたことが判明した。

また、金照源(キム・ジョウォン)民情首席秘書官は市場実勢を上回る価格でマンションを売りに出したうえ、仲介業者のサイトに情報を掲載しなかった。

それは、政権の指示と異なり売却の意思がないとみなされても仕方ない。そうした姿勢が世論の不支持や批判を招いている。

アニマルスピリッツが発揮される環境を整備せよ

今後、文氏に求められることは国内外の状況に真摯に向き合うことだ。それが韓国の社会と経済の先行きに無視できない影響を与えるだろう。

現在、韓国経済は相対的に健闘している。今後の展開を考えた時、世界経済のデジタル化が進むことによって、サムスン電子をはじめとする半導体産業の重要性は高まる。文氏には人々のやる気を支え、経済全体でアニマルスピリッツが発揮される環境を整備することが求められる。

現在、就職を断念する人が増加していることを考えると、文政権は現実に向き合い、規制緩和などを進めて人々の新しい取り組みを支えるべきだ。

また、韓国を取り巻く経済環境は大きく、かつ急速に変化している。特に、韓国は最大の輸出先であった中国から追い上げられている。4~6月期、世界のスマートフォン市場で中国のファーウェイが首位に立ったことはそれを確認する良い材料だ。

ファーウェイは中国製の部品の割合を増やして5G対応のスマホを投入し、シェアを高めた。それは中国が急速に技術力をつけ、米国の圧力に対抗する体制を徐々に整えていることと言い換えられる。

米国の制裁強化によって中国の半導体調達は難航し、半導体生産能力の増強にもより多くの時間はかかるだろうが、先端分野における中国の成長力は高い。それは、中国の半導体需要に支えられた韓国経済にとって脅威だ。