―― 夏秋の合宿を乗り切ると、10月の出雲駅伝から本格的なシーズンを迎える。合宿明けの疲労もあり、例年の早稲田は出雲の成績が振るわない。箱根駅伝の強豪チームは、時期的にも距離的にも出雲を苦手とし、渡辺監督も現役時代に一度も優勝経験がない。
その出雲で早稲田は日大の大会記録を塗り替え、全日本でも駒沢大の大会記録を塗り替えて二冠を達成する。
シーズン初めに三冠を狙うと宣言した以上、出雲での勝利は第一関門です。早稲田にとって出雲駅伝は伝統的に鬼門ですが、ここで負ければ全日本も箱根も勝てない、という気持ちでした。
チームの調子はまるで上がっていませんでした。それでも勝てたところが昨年の早稲田を象徴しています。
全日本は長距離の区間があり、箱根の戦力が見える大会です。ここで勝てば、箱根の勝利がぐっと近づいてきますから、駒沢大の大会記録を塗り替えたことで、油断しなければ箱根もいけるぞ、という自信が生まれました。
出雲と全日本では、僕の区間配置が完璧に当たりました。いつもはオーダーを提出したあとで「やっぱりこうすればよかったかな」と思うものですが、昨シーズンの出雲、全日本、そして箱根はそのような迷いがなかったのです。勘が冴えたとしか言いようがありません。これまで監督生活で培ってきたものが、7年目にしてようやく発揮できたのだと思います。
全日本の直後からは、箱根に向けて集中練習に入ります。早稲田には伝統的な集中練習のやり方があり、かなりハードな練習量をこなします。
ただ過去6年間は、故障の心配から練習メニューを端折っていたところもありました。今回は選手層が厚いので、ほぼすべてのメニューを実施しました。
「中村清監督の時代と同じくらいの練習量をこなした」とメディアに取り上げられた通りです。
ところが、新たな危機を迎えます。全日本で区間賞を取った1年の志方文典が疲労骨折を起こし、出雲と全日本で区間賞を取った2年の佐々木寛文が坐骨神経痛を悪化させるのです。箱根優勝の鍵ともいえる2人が出場できない、という最大の危機です。