和書、洋書を含めて120万冊という膨大な数の在庫を常備している丸善丸の内本店。朝礼では売り上げと目標数字の発表が主で、ほかにはブックフェアやイベントなどの連絡事項を伝えるだけだ。
「うちでは各スタッフがつねに数字を意識して働いています。数字で大切なのはむろん、毎日の売り上げと対前年比の伸び率ですが、もうひとつ力を入れているのがお客様への『お声かけ件数』を増やすことです」
本店店長の壹岐直也氏が強調するのは「お声かけ」の大切さである。それは一種の販促運動で、売り場で本を探している客を見つけたら、その場で「どういった本をお探しですか」と声をかける。そして目指す本がある書架まで誘導していくことをいう。
「検索端末で本のありかがわかっても、そこまでたどりつけない方もいます。ですから、売り場で困った顔をされている方には進んで声をかけているのです」(壹岐店長)
「お声かけ」の目標は店舗でひと月あたり2万件である。かなりの数に感じるが、200名のスタッフが力を合わせて毎月ほぼ達成しているという。
「どの本がどこに並んでいるかがわからないとお客様をお連れできません。みんな店舗のなかを歩き、本の陳列を頭に入れるようになりました。お声かけはお客様へのサービスでもあり、私どもの研修でもある」(壹岐店長)
従来、本屋は「待ち」の商売だった。レジにいて、客が本を持ってくるのを待っていればそれでよかった。ところが、ネット書店の成長もあって、丸善といえども安閑としてはいられなくなったのである。「お声かけ」は店舗を持つ書店の危機感の表れともいえる。
丸の内本店の営業時間は午前9時から午後9時までで、元日を除き無休。朝一番で資料が欲しいビジネスマンにとって強い味方である。
(尾関裕士=撮影)