食生活に関しては、師匠がいつも「噺家は口の商売だから、口が“おごってなくちゃ”いけないよ」とおっしゃっていました。「おごる」とは、美味しい・まずいを正しく食べ分けられる人になるという意味です。たとえば、師匠と私の好物は、油揚げをね、お湯で油落としして、炭火で焼いてカリカリにして、生姜をすっていただくこと。決して贅沢でないものの美味しさを師匠はいっぱい教えてくれました。
豆を食べろとも言われましたね。植物の命は豆から誕生しますでしょ。毎日口にする味噌汁なんて、味噌もお醤油も具材のお豆腐も、すべて大豆。ひとつの料理に豆のものが3つもあるって、素晴らしいですよね。あとは、毎朝の納豆と漬物。漬物はうちのママの糠漬けで、孫がこれ目当てに遊びにくるほどの美味しさです。発酵食品って、とても体にいいのでしょうね。免疫力を高めるなんて言いますし。海苔やお米も好きで、美味しいものを取り寄せたりしています。
落語家なので、お酒とも縁が深く、以前は結構飲んでいました。夜10時頃から明け方までなんてしょっちゅう。でも癌を2回やっちゃったので、最近は飲まなくなりました。酒を飲まずに生きていると疲れます。いつも意識がちゃんとしてるじゃないですか。毎日シラフって、疲れますねぇ(笑)。
木久蔵ラーメンと田中角栄
歯には自信がありましてね。奥歯はインプラントですが、前歯はすべて自分の歯! 豆類も堅いおせんべいも自分の歯で噛めます。食べ物を噛み砕くことは、生きることに繋がります。私は歯ブラシを17種類くらい使い分けて、毎回7分かけて磨いていますよ。2週にいっぺんは歯医者にも行っています。歯の健康は長生きには欠かせない要素だと思うんです。私のような商売の人はとくに、歯には気遣いが必要。小学校4年生頃、洋画スターの顔がアップになったとき、どうしてこんなに格好いいんだろうと思ったら、歯がきれいなことに気づいた。だから大人になっても、歯が汚れるのが嫌でタバコには手を出しませんでした。
落語家という仕事を軸にしながら、興味のあるビジネスには何でも挑戦してきたことも、心と体を健康的にしているんじゃないかな。
「木久蔵ラーメン」もね、いろいろやりましたよ。中国でラーメン屋をやりたくて、面識もない田中角栄さんに頼みにいって。1人3分しか面会時間がないほど多忙な角栄さんにラーメン屋の相談なんて最初は呆れられましたが、ラーメン党は会員が1万人いますよってささやいたら協力してくださって。ところが、角栄さんの紹介ですからヘタなことはできないと思ったのか、中国側が提示するのは1000坪もあるホテル級の土地ばかりで。
私は立ち食いのラーメン屋がやりたいのに。8回も北京に通っているうちに、天安門事件が起こりまして、棚上げになって助かりました。この出来事は面白いから、「ラーメンは人類を救う」という新作落語にしました。お客さんは作り話だと思って聞いて笑ってくれてるんですけど、本当の話なんですよ。