選手たちも試合中の声援がないことに寂しさ
もちろんスタジアムにいる人々も、リモートチアラーを利用できる。
「障がい者の方々や、自分で声を出すのは恥ずかしいけれど会場全体のコールに参加したいといった人たちも、応援の一員になっていただけるんです」
一方で視聴者の側にも、新しい中継の楽しみ方を提供したいと考えている。
「応援の可視化です。どのシーンでリモートチアラーのタップ数が多かったか、つまり遠隔応援がどれほど多かったかを示せるので、これを活用していただければ試合ごとの応援データを比較したり、会場演出に活用することもできます。視聴者は可視化された情報を逐次見ることで、一層応援に熱が入るわけです」
そうした数値は、同システムを導入したクラブのビジネス面でも、貴重な材料となる。
「応援のユーザー層を分析すれば、これまで掘り起こせていなかった新しいファンにアプローチするためのマーケティングデータとして活用できますからね」
では、本来なら通常の試合での使用のためにリリースされる予定だったリモートチアラーが、なぜ無観客試合で採用されることになったのか。
「リリースに先立ち、無観客状態で練習試合を行っていた選手たちにヒアリングを行ったところ、誰もが試合中の声援がないことの寂しさを口にしたんです。ですが彼らを応援する人たちが消えてなくなったわけではなく、感染防止対策でスタジアムに入ることができなかっただけで、テレビやパソコンの向こうには大勢のファンがいます。でも、そのファンの声を選手に届ける手段がなかった。だから、本当はこれだけの人たちが応援しているんだよということを、何とか無観客試合でプレーする選手に届けたいと思いました。そこでリリース時期を早めてでも、サッカーや野球などの再開時での運用に間に合わせたんです」
それはまさに、クラブや中継メディアの側が求めていたタイミングでもあった。
小川航基が絶賛「最後まで走りきるために」
公式戦での使用を想定した実証実験として、ヤマハは事前にいくつかの練習試合でリモートチアラーを運用し、各クラブから視察に訪れたスタッフに同システムの効果をアピールした。
その中のひとつに、6月13日に行われたJ2磐田とJ3沼津の一戦がある。
同試合をDAZNの中継で視聴したサポーターからの思いは、リモートチアラーを通じてスタジアムに響くチャントや歓声となり、試合を戦っているプレーヤーのメンタルにも確かな変化を与えた。出場選手の一人だった日本代表フォワードの小川航基(磐田)が試合後、「歓声があるとないのでは、モチベーションがまったく別もの。最後の一歩や最後まで走りきるために、素晴らしいシステム」と語るなど、選手や指導者からも非常に高い評価を得たのである。
迎えた6月27日、28日。公式戦が再開したJ2、J3では、計10戦でリモートチアラーが導入された。さらには7月4日に再開するJ1でも、清水、神戸、鳥栖、広島、湘南のホーム試合で使用される予定だ。