世界でも稀なシステムに問い合わせが殺到

一部の海外クラブや海外中継局が、コロナ禍後に再開した公式戦の最中、既存の応援音声をBGM的に流した例はある。しかし、試合の現場で繰り広げられる一瞬一瞬のプレーに即した応援を、遠隔地からリアルタイムで送れるリモートチアラーのシステムは、世界でも他に類を見ないものだ。Jリーグの数クラブがすでに導入・運用を開始している他、同システムには国内外の様々な種目のスポーツチームや運営団体から問い合わせが殺到しているという。

リモートチアラーの企画開発者であるヤマハ クラウドビジネス推進部の瀬戸優樹氏に、開発の経緯や今後の可能性について語っていただこう。

実は同システム、そもそも無観客試合での運用のために開発されたものではなかった。

「スポーツの試合をよく観に行っていた私の友人が、突然重い病気にかかってずっと入院しているんです。生き甲斐を失い、沈んでいる彼をなんとか元気づけたいといろいろ調べていくうち、ケガや病気で入院中の子供や、子育てなどで多忙を極めているお父さん、お母さん、海外にいる方々など、スタジアムには行けないけれど自分の声援を会場に届けたいと願っている人たちが他にもたくさんいることがわかりました。そこで試合の際、現場にいるサポーターだけでなく、テレビ中継やパブリックビューイングの視聴者も距離の壁を越え、スタジアムでの応援に加われるようなシステムを作れたらと思い立ったんです」(瀬戸氏、以下同)

声援は、会場各所に設置されたスピーカーから届けられる。つまりテレビの前にいながら、応援するクラブのゴール裏から歓声を送っているかのような感覚でリモート応援を楽しむことができるのだ。

リモートチアラーの企画開発者であるヤマハ クラウドビジネス推進部の瀬戸優樹氏
リモートチアラーの企画開発者であるヤマハ クラウドビジネス推進部の瀬戸優樹氏

従来とは違うトーンの歓声が加わる

とはいえこのシステムは、スタジアムに足を運んでのリアルな応援に取って代わろうとするものではない。

「現場で声援を送るのとどちらがいいかと選択を迫るものではなく、遠隔地にいる人たちが、会場にいるサポーターと一体になって応援するためのツールだと考えてください。現場のサポーターは従来の応援を崩すことなく、会場外の世界中の人たちの声がさらにそこへ加わることによって、新しい応援のスタイルを作っていければ」

テレビやネット配信の中継画面の前で贔屓チームを応援している人々の層は、スタジアムに足を運ぶサポーターたちの層と一致していないことが多々ある。視聴者からの声までが届けば、従来とは違うトーンの歓声が加わってより深みが生まれ、試合現場に響く応援の音量も増すことになるのだ。

「そして遠隔地からの応援参加体験によって、『次はスタジアムに行って、自分でも直接応援してみたい』と思ってもらえる流れを作りたいんです。まだ会場に足を運んだことがない人は、どのタイミングでどんな声援を送ればいいのかとか、スタンドで始まったチャントにどうやって加わればいいのかといった応援の仕方がわからないために、観戦をしり込みしている場合があります。でもリモートチアラーで応援参加することにより、事前知識を得た上で不安なくスタジアムに行けるので、新しいファン層の育成につながるのではないでしょうか」