クラスターの原因も予想にすぎない

「在宅の人とか地元で働いてる人はいくらでも言えますよね、なんか嫌だ」

まだ若いセイヤさんの上滑りは仕方のない話、それでも言いたいことはわかる。「砂漠のインド人は魚を食わぬことを誓う」というゲーテの格言どおり、現代人も砂漠のインド人だった。ネットを中心にここぞとばかりに地方マウント、在宅マウントで大都市圏の人々やそれでも出勤しなければならない職業人、そして自分には必要のない娯楽の従事者を非難した。

それでもホストクラブなど夜の店のクラスターが目立つのは確かだ。やはり飛沫感染、密室での長時間の会話は感染原因のひとつだろう。基本、不特定多数がベラベラしゃべらない車内や密にならない屋外、いま私とセイヤさんのいる歌舞伎町の路上のような、こういった開放空間でクラスターは発生しづらいと考えていいだろう。ましてや私もセイヤさんもマスクをしている。また密閉空間の飲食でも牛丼屋や立ち食いそば屋のように黙々と食べるようなところでは発生していない。あくまでマスクをせずに密閉空間で長時間のおしゃべり、これが一番まずい。

「でもそれも予想ですよね、わかんないから言ってるだけで」

結局コロナよりカネ、命なんてピンとこない

セイヤさんはイラついているようだ。そして彼自身の事情を話してくれた。

「うちは仕送り頼れないんで、全部俺が稼いでるんです。奨学金の返済って厳しいんですよ、闇金かってくらい厳しいです。貧乏人は大学行くなって言われりゃそれまでですけど、俺は行きたいんです。それには金になる仕事しかないんですよ、誰も助けてくれないしね」

奨学金は借りる先にもよるが、容赦のない請求や取り立てが横行していることは私も知っている。その多くは委託された債権業者によるものだ。債権業者の多くはかつての消費者金融の残党やそのノウハウを手にした連中で、大手企業の名前だけ冠した孫会社、ひ孫会社で好き勝手している。「債権管理回収業に関する特別措置法」に基づくものだが、改正してさらに強化しようと一部議員および業者が結託している。

「でもそんなのでも借りなきゃしょうがない、返さなきゃしょうがないんですよ。コロナより金です。命なんてピンときません」

若者の正直な気持ちだろう。私だって20代の頃は生き死になんて考えもしなかった。程度の差こそあれ、生き死によりも金と仕事と遊びである。コロナ禍はせっかく好転しつつあった日本の若者をも苦しめようとしている。それは団塊ジュニア、氷河期世代の苦しみともまた違う苦しみかもしれない。しかし私たちが苦労したからと、彼らに強いるのも筋違いだ。それにしてもホストクラブのクラスター取材が若者の貧困話となるとは。