切羽詰まって起こした「大寝坊」事件

しかし、すべてがうまくいったわけではない。仕事もかなり進んだ2004年4月22日のこと。この時点では単行本のゲラの大部分が印刷所から出てきて、それをチェックしてまた印刷所に戻すという作業が残っていた。翌日11時には次々号のホンダのディーラーの取材があるが、まあ約300ページのゲラでも部下2人と手分けして読めば1人100ページ。いま20時だから2時間で終わってその後飲みにいけるな、などと考えていた。しかし、

 「一人で読んでください。直しのクセなどのバラつきがあっては困ります……」

と制作の女性に冷たく言われてしまう。考えてみれば、単行本の世界では一人でゲラをチェックするのは常識中の常識。単行本は最後まで一人の責任で作るものなのだ。これまで雑誌の編集しかしてこなかった私は完全に計算が狂った。

とにかく雑誌のゲラはさておき、一心不乱に単行本のゲラを読むことに集中する。すでに何度か読んでいたが、自分一人で全部読むとなると結構、時間がかかる。22時、23時になってもようやく半分ぐらい。焦れば焦るほど前に進まない。特に第10章の「買収と成長」のところになると進みが遅くなった。聞いたこともないアメリカの会社名がたくさん出てくるし、そもそも自分にとってM&Aなんて一生縁がないものだ、なんて考えると、さらに読むのが遅くなる。

しかし柳井会長がこの本の復刊を期待してくれている、そして一緒に仕事を手伝ってくれた人たちのことを考えると眠気も我慢。さらに読み続ける。しかし夜中の2時、3時になっても終わらない。

編集部にはまだ、ほかにも人がいた。速読体験記の執筆を命じたWが別のデスクと原稿の内容を巡って侃々諤々の言い合いをしている。しかしその声も次第に遠くなり意識が薄らいでいく……。

朝5時ぐらいに読了して。ゲラを制作の机に戻して朦朧としながら帰宅した。