睡眠不足は酩酊状態と同じ

ハーバード・ビジネス・レビュー誌は「睡眠不足は企業リスクである」という記事を出し、睡眠不足がパフォーマンス低下をもたらす事実を紹介している。記事を書いたのはハーバード・メディカルスクール教授のチャールズ・A・ツァイスラー。彼は睡眠不足を酒の飲みすぎになぞらえ、1日の徹夜や1週間の4~5時間睡眠によって「血中アルコール濃度0.1%分に相当する機能低下」が起こると説明する。

「酔っぱらいを見て『いつも酔っているなんてさすが働き者だ!』と言う人はいないだろう。それなのに、睡眠を削っている人はなぜか働き者だと評価される」

睡眠には、体を休めるだけでなく、脳をリフレッシュさせる役目がある。ドイツのリューベック大学の研究でも、十分な睡眠は脳の機能を高め、問題解決能力をアップさせるという結果が出ている。

ネイチャー誌に掲載されたこの研究は、100人の被験者に数字クイズを解いてもらうというものだ。一筋縄ではいかないクイズで、「隠れた暗号」に気づかなければ解けないようになっている。被験者は2つのグループに分けられ、一方は8時間ゆっくり眠れるが、もう一方は何度も睡眠の邪魔をされた。そのあとで数字クイズを解かせたところ、8時間寝たグループの正答率は、眠れなかったグループの実に2倍だった。

なぜか? 研究者たちによると、私たちが眠っているあいだ、脳は膨大な情報の整理と再構築をおこなっている。だから、起きたときには神経の新たなつながりができて、より多様な解決策を見つけることが可能になる。一夜のうちに、答えがひらめきやすくなっているのだ。

優秀なリーダーたちは8時間睡眠する

まとまった睡眠がとれない人は、昼寝をするだけでもいい。アメリカ科学アカデミー紀要に掲載されたレポートによると、レム睡眠が一度でもあれば、脳はバラバラな情報を統合することができる。たとえ短時間の眠りでも、世界をより深く洞察できるようになるということだ。

このように眠りは、私たちの能力を引き出し、短時間でより良い成果が出せるようにしてくれる。

世の中では相変わらず睡眠が軽視されているが、流れは少しずつ変わっている。多忙な業界の優秀なリーダーたちが、8時間睡眠をアピールするようになってきたからだ。彼らは良質な眠りが大きな競争優位性を生むという事実を見抜いている。

アマゾン創業者ジェフ・ベゾスは、眠りの効用をこう語る。

「注意力が高まり、思考が明晰になります。8時間眠った日は、ずっと調子がいいですね」

またネットスケープを開発したマーク・アンドリーセンは、日付が変わるまで働いて翌朝7時には起きるという生活をしていたが、もっと睡眠をとるように生活を改めた。

「昔は1日中眠くて、早く帰って眠りたいということばかり考えていました」それが今では、「少なくとも7時間は眠らないと駄目ですね。6時間では足りないし、5時間だと明らかに支障が出る。4時間のときはゾンビ状態です」。

休日には12時間以上眠ると言う。「よく眠るとパフォーマンスが全然違うんですよ」

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「睡眠は成功者の新たなステータスシンボル」

という記事で、こうした起業家たちを紹介している。

「もはや疑問の余地はない。多忙なストレス社会のアメリカでは、睡眠が新たなステータスシンボルとなっているのだ。かつては根性なしとののしられたものだが――80年代には『ランチは負け犬のもの』『睡眠は子供のもの』と叫ばれていた――今では睡眠こそが優秀さの証であり、クリエイティブな経営者の必須アイテムなのである」