できる人は睡眠は武器だと考える
自分の1週間の睡眠を振り返ってほしい。睡眠が7時間以下だった日はあるだろうか。
何日も連続で睡眠不足がつづいていないか。「自分は眠らなくても大丈夫」などと自慢げに語っていないだろうか(もしも4~5時間の睡眠で足りると思っているなら、この記事を注意深く読んでほしい)。
世の中には短時間睡眠で活動できる人もいるが、そういう人はたいてい疲労に慣れきっているだけだ。たっぷり眠って明晰に考えるという感覚を忘れているのである。
少ない時間とエネルギーで最大の成果を出すための考え方を「エッセンシャル思考」という。非エッセンシャル思考の人は、睡眠を一種の義務のように考えている。ただでさえ忙しいなかで、さらに時間を食いつぶす足手まといだと思っている。
一方でエッセンシャル思考の人は、睡眠を武器だと考え、自分の力を引き出すために活用している。計画的に十分な睡眠をとることで、仕事の質を最大限に高めているのだ。エッセンシャル思考の人は自分という資産をうまく守るので、ここぞというときに十分な力を発揮できる。疲れすぎて肝心なときに倒れるようなことはない。
エッセンシャル思考の人は、あとで最高の成果を出すために、目の前の瑣末な仕事を切り捨てる。トレードオフだ。この小さな駆け引きが、やがて圧倒的な利益となって返ってくる。
一流のバイオリニストはよく眠る
なぜ人は、貴重な睡眠をすぐに削ろうとするのだろうか?
睡眠を削ればもっと働ける、と考えているのかもしれない。数々の証拠が、それとは逆の結果を示しているというのに。
マルコム・グラッドウェルが提唱した「1万時間の法則」をご存知だろうか。心理学者のK・アンダース・エリクソンがおこなった調査で、一流のバイオリニストは普通の生徒よりも練習時間が格段に多いという事実が明らかになった。この発見は「生まれつきの天才」という神話を打ち砕き、集中した質の高い練習こそが一流を生み出すという新たな考え方を世の中に広めた。
ただし、この発見は、とにかく量をこなそうという非エッセンシャル思考にきわめて近いものでもある。「1万時間」という数にとらわれ、質を考慮せずに時間ばかりをだらだらと引き延ばす人も出てきてしまった。
あまり注目されていないが、この調査ではもうひとつの重要な事実が明らかになっている。一流のバイオリニストはよく練習するだけでなく、よく眠るという事実だ。
エリクソンの調査によると、一流のバイオリニストは、1日平均8.6時間の睡眠をとっている。アメリカの平均より1時間長い数字だ。さらに、彼らは週に平均で2.8時間の昼寝をしている。これはアメリカの平均より2時間長い。エリクソンらはこの事実から、睡眠が一流パフォーマーたちの並外れた集中力を支えているのだと結論した。ただ長時間練習しているのではない。たっぷり休養することで、1時間あたりの練習効果を最大限に高めているのだ。