ハーバード大学は上層部の給与削減と雇用中止へ

注目が集まるオンライン授業だが、同准教授によれば、予想される景気の後退に対処するため、大学によっては違う選択肢をとるケースもある。

例えば、ハーバード大学ではその対抗策として、経営面での抜本的な改革に力を注ぐ。大学上層部の給与の削減、雇用の凍結などを先日発表したが、他大学もこれに追随した方針を打ち立てると見られる。

これらの大学がオンライン講座への期待が薄いのは、学生から授業料の返還を求められることへの恐れ、とも受け止められる。筆者も今回のパンデミックが起こった頃、ニューヨーク大学大学院に通う女性から、オンライン講座に変更されたのに、なぜ同額の授業料を払わなくてはならないのかと不満を聞いた。

この状況に加え、もともとアメリカでの大学教育をめぐる厳しい環境は、コロナウイルス感染の前から問題視されてきた。

そのひとつが、海外からの留学生の減少である。

授業料は約30年間で2倍以上に増加

入国に関し厳しい取り締まりを重要課題とするドナルド・トランプの政策によって、政権発足以来、外国人留学生の入学は下降線をたどっている。そこへこのパンデミックが追い討ちをかけ、おびただしい数の死者を出している国から、留学希望の若者たちや彼らの家族の足が遠のいた。

さらに、長年にわたる授業料の値上げがここへ来て、大学の経営側の足を引っ張り、教育における格差を生んだことも見逃せない。

1980年から2014年で授業料の値上げ幅は、経済のインフレ率の2倍にあたる実に260%の上昇を記録した。昨年度の集計によれば、私立大学で4年間学ぶと20万ドル、公立でも同期間で10万ドルもの巨額の授業料を払わなくてはならない、と前述のニューヨーク・タイムズ紙の記事は伝える。

補助金カットに苦しむアメリカの大学事情

ニューヨークの私立大学ニュースクールで歴史を教えるクレア・ボンド・ポッター教授は、授業料高騰の背景に政治の介入を指摘する。ニューヨーク市立大学などかつては無料、もしくは低い授業料だった大学は、80年代に大幅な補助金カットのあおりを受け、財政上の困窮状態に直面し、授業料の引き上げに踏み切った。

「市、州、そして連邦政府の政治判断により推進された授業料の徴収は、1960、70年代に有権者が絶え間なく減税を要求したのに応じたからだ。カリフォルニア州はその先陣を切った。1967年から1975年まで州知事だったロナルド・レーガンは高等教育への補助金を20%と決め、納税者が“知的好奇心を補助”すべきでないと述べて、カリフォルニア州立大学全校の無料教育をやめさせた」

別のニューヨーク・タイムズの記事でそう語るポッター教授だが、レーガンが80年に大統領へ就任すると、大学経営は授業料で賄うという機運は全米規模に広がり、債務の負担が学生やその家族に重くのしかかり現在に至っている。