権限委譲「デリゲーション」ができる組織は人が育つ
デリゲーションという言葉は日本ではあまり縁がないかもしれませんが、日本語にすると「権限委譲」という意味です。海外の場合には各人のジョブディスクリプション(職務定義書)がはっきりしているので委譲もしやすいのですが、日本型の組織ではなかなか難しいのかもしれません。しかし、権限委譲ができる組織は人が育ちます。
会社員時代に、フリーアドレスの席で仕事をしていると、海外からのエグゼクティブが隣に座って仕事をしだしました。“Give him a chance!…If he can’t manage it, fire him!” 電話で話す彼はそんな会話をしていて、鳥肌が立ったのを覚えています。つまり、「チャンスは彼にあげるけれど、もしうまくいかなければ辞めてもらえばよい」という会話を偶然耳にしてしまったのですが、そんなやりとりが普通の会話として聞こえてきたことが衝撃でした。
日本企業では、今の法律でそんなわけにはいきませんが、近い将来そのような厳しいことが起きるかもしれません。逆に、チャンスを渡すことでその人が伸びることもあるでしょうから、権限委譲をうまくできれば部下の成長の機会とすることもできるでしょう。
リモートほど、声掛けが重要になる
ここで注意が必要なのが、デリゲーションの「範囲」と、委譲した相手への「動機づけ」です。どこまで委譲するのかは、部下のその仕事の習熟度によります。10あるプロセスを全部渡していいのか、プロセスの4と5だけなのか、対象者との会話が大切です。段階的に渡した方がいい人と、10個のプロセスを全部丸投げでも大丈夫な人がいるでしょうから、本人に決めさせるとよいでしょう。
そして、動機づけは非常に大切です。もちろん組織のため、顧客のためという大義名分も必要ですが、やはり最後まで頑張れるかどうかは「オウンリーズン」(Own Reason)、つまり自分なりの理由です。これが自分ごとになればなるほど、放っておいても頑張れるのです。
例えば、「この仕事の先に新しいキャリアが拓ける」「これがうまくいけばインセンティブがつく」「この仕事がうまくいけば社内での影響力も大きくなる」など、その人が欲しいものに直結するような頑張る理由を明確にしてあげることが大切です。
そして最後は、モチベーションを維持・向上させるような意識的な関わりも必要です。そもそも難しいことにチャレンジしているわけなので、うまくいったりいかなかったり、メンタルはジェットコースターです。ですから、うまくいっている時には注意点を、へこんでいる時には支える一言や期待を伝えるなどの工夫があるとよいでしょう。リモートであれば、なおさら必要になってきます。