将来の収益を占う業績と顧客評価のズレ

全方位でいい顔をしていれば済む時代は終わった。もちろん価格は重要だが、それ以外にも接客のレベルや品揃えの独自性などその企業にしかない魅力を、顧客はしっかり見ている。自分たちでなければ提供できない「際立った価値」を持つ企業には高い評価が集まったが、その逆の企業には厳しい評価が下された。今回の調査結果ではそうした目の肥えた顧客が増えた時代の傾向がはっきり示されている。

バブル崩壊後の長い不況は「学習」の時間となり、顧客を賢くした。その結果、多くの人は「日常財布」と「非日常財布」の2つの財布を持ち、複数の目的で財布を使い分けている。大切な人とは高級レストランで食事する一方で、1人ではファストフードを使うという層が増えている。そうした嗜好の変化に対応できなければ、顧客に見捨てられてしまう。

表の数字はどれも重要だが、特に継続して利用したいと思う「再訪意向」と、友人に勧めたいと思う「紹介意向」に注目してほしい。再訪意向は日常用、紹介意向は非日常用と読みとることもできる。たとえば日常では「生活防衛」として価格を重視する一方、非日常では「買い物の楽しさ」を追求するような傾向がある。

その意味で、意外な発見はあったものの、首をひねるような不可解な結果はなかった。業績が堅調な「強い企業」はしっかりと顧客に評価されている。ただし、顧客は移り気である。いくら「強い企業」であっても、顧客に独自のメリットを訴求できないと、いずれは収益に響いてくる。業績で判断する「企業評価」と、今回の調査に見られる「顧客評価」のズレを注意して見なければならない。「企業評価」に対して「顧客評価」が低い企業の将来は安泰とはいえない。

さらに「老舗ブランド」という昔の資源だけに依存している企業も危険である。進化のない「老舗ブランド」は若い世代にとっては情報価値のない存在でしかない。実際に「帝国ホテル」のバーを訪ねると50代以上の客ばかりで、30代、40代が少ない。それに対して「マンダリンオリエンタル東京」のバーは30代前後が非常に多い。次世代の顧客づくりができるかどうかが、これから重要な視点になる。

居酒屋でも同様のことがいえる。顧客のイメージが店のイメージにつながるため、既存の顧客だけをつなぎとめ、他の世代への広がりがない企業は「古くさい」と思われてしまう。いま一部の居酒屋に暗いイメージがあるのは「グチをさかなに酒だけを飲むイメージ」につながっているからだ。次の時代をになう顧客づくりが必要だ。

現在の顧客は「暮らしの質を上げる」ことに関心を持っている。「この店と付き合うと発見がある」という驚きや喜びが評価される時代なのだ。価格と質が見合っているのは当然であり、顧客の期待を上回ったところではじめて支持される。別のいい方をすれば「どこに行こうか」と思ったとき、思いつく選択肢の何番目に入るかという部分が大きい。「そこを使う魅力をいくつ想起できるか」ということでもある。