英首相は「香港の自治を大いに損なう」と批判
英国のジョンソン首相が訴えている、香港返還前に英国と中国が取り交わした中英共同声明に基づく「香港のあるべき姿」を改めて確認しておきたい。
・外交、防衛、緊急事態などの限られた例外を除き、香港の「高度な自治」は保証される。
・香港の現在の社会的および経済的システムは(旧英領時代、返還前)変わらないままである。
・本質的な「権利と自由」を含むライフスタイル全般も変わらないものであるべきである。
こうした前提と、香港で近年起こっていることが大きく齟齬があるのは誰の目にも明らかだ。
これについて、ジョンソン首相はこう述べている。
国家安全法について「香港の自由を奪い、香港の自治を大いに損なう」とし、「中国による最近の施策が、香港の緊張状態の緩和にどう寄与するのは、私は理解に苦しむ」とした上で、「『香港から本土への引き渡しを許可する法律(逃亡犯条例改正案)』を香港政府が可決しようとした誤った判断により、昨年一年はほとんどの間、大規模な抗議が起き続ける事態を引き起こしたではないか」と批判。
同法が導入されれば「英国は香港の人々との深い歴史上のつながりと友情の絆を守る」との心構えを述べる一方、「英国は、香港で一国二制度というシステムを今後も維持できること。英国はただそれを要求しているにすぎない」と、中国の高圧的な態度を諌めている。
現地の名士や大手銀行は「中国支持」へ
そこでジョンソン首相は、香港市民への救済策として「香港市民に英国市民権取得への道を開く」と明言。「さすが旧宗主国の首相」と世界中の人々が溜飲を下げた。
英国は、旧植民地時代のパスポートを条件が合う香港市民に発行。特別な審査を経ずに英国での就労や定住を認めた上で、いずれ市民権を与えるという方針だ。
しかし、返還から20年以上を経た香港では、「支配層」に属する多くの企業人や名士が「中国政府支持」の声を上げている。こうした人々は日本のメディアや専門家の間では「親中派」、現地では「建制派」と呼ばれている。
分かりやすい例としては、香港を代表する映画スターのジャッキー・チェンがいち早く中国支持を表明。日本でも「納得できない」とするコメントがネット上にあふれた。
そんな中、植民地時代から英国との繋ぎ役となっている香港の二大銀行、HSBCとスタンダード・チャータード銀行はここへきて「中国支持」の立場を打ち出した。本社は依然、ロンドンに置かれている上、両行とも香港ドル札の発行を許されている発券銀行だ。ちなみに香港の銀行各行で組織する同業者協会の香港銀行公會(HKAB)もやはり中国政府支持に回っている。
ところで香港ドルの為替レートは米ドルに連動する「ペッグ制」をとっている。この香港側の受け皿は発券銀行でもあるHSBCも一躍を担っている。なのに、米国の意向に沿わない中国寄りの姿勢を取るのはそもそも理解に苦しむ。