税務署職員の山田直道さん(仮名)は淡々と語る。

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「伊丹十三監督の『マルサの女』。僕の周りにはあの映画を見て、うちの業界に入ったという人も多い。今、ホットな話題といえば、うちの職場がドラマ化されていることでしょう。米倉涼子が主演のものです(『ナサケの女~国税局査察官』)。このドラマを見てうちの会社を希望する人がいるとうれしいですね」

山田さんは、自分が税務署員であることを秘匿するため、外に出ると隠語を使う。税務署は、“うちの会社”、税務調査を“お取引”、調査中の納税者は“お客さん”、そして、税務署長は“オヤジさん”である。

「しかし、ここまでうちの会社が嫌われているとは考えもしなかった。採用面接時に、本当にみんなから嫌われるよ、といわれていましたが、実際に仕事してみるとよくわかる」

脱税を暴く正義の味方も、現場では“税金ドロボー”の公務員として扱われてしまう。

「僕らは質問ばかりするんですよ。徹底的に質問攻めです。お客さんの業界について何も知らないわけだから、知ったかぶりせずに勉強しながらお取引をする。

これが癖になってしまって、結婚式場の細かいことまで奥さんに代わって『もっと安いものはないんですか?』とか、聞きづらいことまで根掘り葉掘り聞いてしまう。普通は奥さんが細かく聞くものだから『旦那さんは興味を非常にお持ちですね』とかいわれてしまいます。このあたりも嫌われる理由かもしれませんね。慣れというものは怖いものです」

所得激減。暗い先行き。それを見越したためか、日本社会の変化が急激に早まっている。インタビューしたあらゆるビジネスマンが苦悩を抱え、あらゆる職場で矛盾が表面化していた。

※すべて雑誌掲載当時

(小原孝博、小倉和徳=撮影 編集協力=佐藤ゆみ)