添乗員の賃金は日給制だ。こうして早朝から深夜まで働いて、新人で1日1万円、14年目の大島さんだと1日1万7750円。ツアーは8日間前後の旅程が多く、月に2回が限度。添乗できるのは最大で年間200日ほど。年収は平均230万円程度で、雇用保険や社会保険はつかない。

労働基準法では、労働者が事業所の外で従事するなど労働時間を把握できない場合、あらかじめ定めた労働時間を働いたとみなす、と定めている。「みなし労働」と呼ばれる規定で、業界では、この規定を利用して残業代を支給しないのが一般的だ。

「いくら頑張っても仕事で失敗したり、顧客からクレームがきたりすれば、“謹慎”といって3カ月近く仕事がこなくなります。会社は、代わりの添乗員はいくらでもいると思っているんです」

以前、同僚は管理職の男性から、「技能も賃金も高い美空ひばりはいらない。必要なのは、代わりがきくモーニング娘だ」と侮辱の言葉を浴びせられたという。

07年2月、大島さんは添乗員の待遇を改善したいという同じ思いの同僚たちと「東京東部労組阪急トラベルサポート支部」を設立した。会社との交渉の結果、同年10月に深夜0時~早朝5時の深夜残業代はつくようになった。さらに同年12月から、大島さんのように10年以上勤務し年間180日以上添乗している添乗員には、雇用保険と社会保険もつくようになった。それでも将来への不安はぬぐえないと話す。添乗員には、将来の自分の姿を描く「キャリアプラン」が提示されていないからだ。多くの添乗員は、体力的な限界などから50歳ぐらいで辞めていくという。

現在、大島さんは都内で74歳になる母親と2人で暮らしている。

「体力が続くまでは仕事を続けたい。だけどその後はわかりません。食べ物屋さんでも開きながら時々、添乗員の仕事ができればと思っているのですが……」

(イメージ写真=早川智哉)