帰宅直前に会社から自宅パソコンにメールを

HDとその子会社も同様。「解雇された派遣社員が交渉しようとしても、HD側は『ウチは使用者ではないから団交には応じられない』という」(同)。

稼いだお金を一番多く吸い上げるHD、派遣先企業と直接交渉できないのは、やはりどう考えてもおかしい。

もっとも、首筋が冷たいのは派遣社員だけではない。今年5月の完全失業率は5.2%と前月比0.2%悪化し、厚生労働省も雇用情勢の判断を「さらに厳しさを増している」に下方修正。非正社員切り、ボーナス・残業代カットはほぼ一巡し、年後半は正社員削減の本格化を観測する向きもある。

しかし、それをわが身に引き寄せて考える正社員は実は多くはない。だから、いきなり労働紛争の渦中に叩き込まれると、多くはパニックに陥り、「私は悪くない」と“モンスター”化。弁護士がアドバイスしても、自分に都合のいい話しか聞こうとしなくなる。

冷静に対処するには、まず会社との“闘い方”を知らなければならない。

普段から準備しておくべきことは何か。自分の労働時間の管理については、職場にタイムカードがあればたいがいは大丈夫だが、タイムカードを押した後の残業を強要する会社も現実にある。

「毎日、帰宅前に会社から自宅パソコン宛てにメールを一本送るのも手でしょう。会社側は、裁判ともなればタイムカードの記録を出してくることが多いですが、記録を隠さないとは言い切れない。その場合は証拠保全の手続きを取ることもあります」(君和田氏)

過労死の労災認定は、本人の健康状態を普段から家族がチェックして記録しておくと判断材料になる。日記に記しておけばなおいい。労災申請をすれば、まず労働基準監督署が調査に来て、文書を提出させたり、同僚からの聞き取りも行うから、会社側も協力せざるをえない。「認定を得ることが極めて困難であった昔に比べ、随分と認定が出るようになりました。一定以上の長時間労働に従事していれば因果関係アリ、と判断されるようになっています」。問題は、タイムカードがないなど労働時間の管理が杜撰な場合。激務と死因との因果関係の解明が困難になる。

では最近、工場などで増えている「一時帰休」の問題はどうか。経営者が命じるには従業員代表との合意が必要だが、その際に行政から出る助成金の申請についても同様の合意が前提となる。帰休中の給与保障額は元の6割以上なので、助成金が欲しい経営者と「8割5分くれたら一時帰休に応じる」などと交渉ができる。

※すべて雑誌掲載当時