普段の心掛けの最たるものは、突然やってくる解雇や退職勧奨への対処だ。

「退職勧奨には絶対に即答しないこと。『辞めます』と言ってはダメです。その場で思考停止させて退職届にサインさせる手法には、注意しなければなりません。後でだまされたと知っても、一度出した退職届を覆すのは困難。何度も呼び出されるようなら、やり取りを録音しておくといい」(東京法律事務所・君和田伸仁弁護士)

「“解雇を恐れるな”がリストラ対策の鉄則」というのは安部氏。退職勧奨されても「退職する気はない」「解雇される覚えはない」と言い張る。退職勧奨は、絶対に文書にしてもらうこと。これが後々大きな武器となる。

そして、(1)自分を解雇する必要があるのか、(2)解雇を回避するためにどんなことを行ったのか、(3)人選が適当か、(4)従業員・組合と誠実に話し合ったか、の4つを徹底して会社側に問い質す。

「例えば(2)を言っても、会社側はたいがいポカンとしていますね。『トヨタやキヤノンが何も言われず、なんでウチがダメなんだ!』と怒る中小企業オーナーもいます」(東京管理職ユニオン・安部誠副委員長)

結局、リストラから“どう身をかわすか”ではなく、“どう堂々と向き合うか”に知恵を絞る。「経歴に傷なんかつかないから、平気ですよ。子供と同じで、初めから逃げ腰ではよけい会社側にいじめられますよ」(安部氏)。

もし紛争が起こったら、弁護士に依頼することになる。だが、安部氏は、「労働問題に精通した弁護士は全体の2割程度」と辛らつだ。「無料市民相談などで弁護士を紹介してもらうのは危険。労働弁護団か、ウチで紹介する弁護士が確実」(同)。

手っ取り早い労働紛争解決に有効な手段もある。06年4月にスタートした「労働審判制度」だ。3~4カ月程度で一定の結論が出るのが特徴で、安部氏も相談者に利用を勧めている。

「互いに和解する意思はあるが、例えば交渉の担当者が社長を説得できないといった、当事者どうしでは和解できないケースに使います。裁判所や第三者機関にいわれれば和解は促進されるから、僕らもよく使います」

これは弁護士なしで申し立てができる。「本裁判だと、弁護士なしの本人訴訟はたいがい負けるのでお勧めしませんが、この制度はしっかりした人なら本人だけでも大丈夫です」(安部氏)。

地方裁判所に申し立て、裁判官である労働審判官と労働審判員2人の計3人で構成する労働審判委員会が原則3回、トラブルについて審理しながら話し合いによる調停を試みる。

労働審判官には多くの場合、裁判長が、労働審判員には、労働者側と使用者側が推薦した経験豊富な人の名簿から選ばれる。解雇、賃金未払いなど論点が単純なものがやりやすい。傾いた会社の整理解雇のように責任の所在が不明確な案件は向かない。「調停が成立しなければ同委員会が審判を行う。その結果に満足できず、異議申し立てをしたら通常の裁判に移るが、7~8割超は調停で決着がつく」(安部氏)。

正社員にもリストラの波が押し寄せてくる今、何も知らない、何もやらないことが致命傷になる可能性がある。おさおさ怠りなきように。

※すべて雑誌掲載当時