危険への温度差で、夫婦関係に亀裂も

災害時の心理には個人差があり、それがパートナーとの関係性の問題に発展してしまうこともあります。

まずは「危険」の程度や範囲には個人差があることを知っておきましょう。赤ちゃんは「何を恐れるべきか」という学習が不足しているため、危なっかしい行動がみられますが、成長とともに学習し、注意深さが身についていきます。成長過程で、危険についても学習していきますが、その判断基準は人によって違います。例えば、学生時代に微熱が出たとしましょう。少しくらいの熱なら登校し部活にも参加する人もいれば、微熱でも安静にする人もいます。

このように、生活や家庭環境など、人によって異なる様々な影響が、危険の程度や範囲に個人差を生み出します。

次に、「危険」への対処法についても個人差があります。危険に遭遇したときの反応は、「戦う」か「逃げるか」に分かれる傾向があります。一概には言えませんが、女性は守るという本能が強く、危険をできるだけ避け、男性は闘争という本能が強く、立ち向かおうとします。

そのため、夫婦間において「妻は用心深く、夫は楽観的」(もちろん逆のパターンも)といった温度差が生まれることがあります。

続いてカギとなってくるのは「相補性」。既婚者にパートナーを選んだ理由を聞くと「わかり合えるから」という答えが多いものです。と同時に、「自分にはない、いいところがある」という回答も多いです。パートナー選択において、お互いをわかり合える「共感性」と、補い合える「相補性」は、重要なポイントと言えます。

しかし、「相補性」には盲点があります。ベースになっているのはお互いの違いですから、実際に結婚生活をスタートしてみれば、「え、どうして石鹸で手を洗わないの?」「そこまで消毒するの?」などのズレに気づくようになります。些細な習慣や衛生観念などの違いはトラブルの原因になりやすく、温度差が生まれるひとつの大きな理由になります。

温度差というのは、1度考え始めると悪い方向へ転んでしまいがちですが、よい関係を築くために、次のことを取り入れてみてください。

まず「違うからこそ役割分担ができるね」と違いから生まれるメリットがあるという意識を口に出して共有する。そして、それぞれが持つ防災や衛生観念について語り合いましょう。計画的に備蓄したい、除菌はしっかりやりたい、賞味期限は守りたいなど、意識の違いを確認しましょう。

それから具体的に助け合える行動に落とし込みます。備蓄品や緊急連絡先のリスト作成、転倒防止対策用品の取り付け、保存食レシピ、役割分担を決めるなど。このような対話を持つことで、温度差がメリットに転じ、関係性もより強まるでしょう。

非常事態にはいつも以上に冷静な判断が求められます。

しかし、つい日常生活の延長上の出来事として捉え、危険性を過小評価し、「自分は大丈夫」と考えてしまう傾向があります。これは「正常性バイアス」と呼ばれています。表に示した通り、一概には言えませんが、「正常性バイアス」につながりやすい心理には様々なタイプがあります。

また「カリギュラ効果」という、禁止されるとむしろやりたくなってしまう心理も働きがちです。これは1980年に公開された映画『カリギュラ』が過激な内容のため一部地域で公開禁止となり、それがかえって注目を集めたことに由来しています。このような現象が起こるのは、人が本能的に持つ「自由に行動を選択したい欲求」に起因すると考えられています。この欲求は、赤ちゃんにさえ備わっていることが心理学的実験で確認されています。

災害時の「自分は大丈夫」の心理分析