挑戦的? タイトルへの学校の先生の反応は……

なお、『学校では教えてくれない』というシリーズタイトルは、旺文社の大事な読者でもある学校関係者から批判的な反応はなかったのだろうか。

「大丈夫です。私たちは学校教育を否定しているわけではなく、教科で学ぶことの範囲を知っているからこそ、それ以外の部分もお手伝いできないかという視点で考えています」(廣瀬氏)

広報担当者によると、杉並区の小学校では授業で使われたこともあるほか、学校図書館でも多数採用されている。司書の方から『図書館だよりで紹介したい』との問い合わせも寄せられているという。

教師としては、学校ではカバーしにくいが保護者から「うちの子、どうにかなりませんか」と言われやすい勉強法や生活習慣について、多忙な教師に代わって教えてくれるなら大歓迎、というわけだ。

『学校では教えてくれない大切なこと 8 時間の使い方』(旺文社)
『学校では教えてくれない大切なこと 8 時間の使い方』(旺文社)

2020年度からの実施される学習指導要領では「主体的・対話的な深い学び」が重視される。このシリーズで扱われる『研究って楽しい』『本が好きになる』『発表がうまくなる』などのテーマは、広く言えばこうした教育の潮流に合致したものとも言える。

9~10歳の子どもに自己啓発をうながすのは早すぎるという気もするが、廣瀬氏に聞くと、それも考えすぎのようだ。

「親が子どもに身に付けてほしいテーマを選んで本にしていますので、これまでお叱りの声をいただいたことはありません。『子どもに身に付けてほしい』と思っていることを会得してもらえるので助かっている、という声が大半です。お子さんからも『全巻読みました』といった感想のお手紙をときどきいただきます」(廣瀬氏)。

ノウハウ、チャンネル、人材の3要素がヒットを生んだ

『学校では教えてくれない大切なこと』は企画当初から「子ども向け実用書」というコンセプトで本作りを進め、パイオニア的存在として市場開拓を進めてきた。

シリーズ開始から5年経ち、近年ではメディアで「子ども向け実用書」というくくりで特集されることも増えた。書店には児童書棚のサブカテゴリとして独立した棚ができるほどになった。

このジャンルは、大人向けではよくある題材を扱ってはいるものの、ビジネス書に強い出版社のシェアが大きいわけではない。本のつくり方、売り方の勝手が大きく違うからだ。

一般のビジネス書は本人が課題意識に思っている内容に反応して、本を手に取る。一方、子ども向け実用書は、子どもは課題意識を持っていないが、第三者(親)が課題だと感じていることを、子どもに興味を持たせて納得させて解決することが求められる。

ただし、担当編集者が「ふだんの参考書づくりから頭を切り替えて、いかに子どもたちにおもしろがってもらえるかを考えている」と語るほど、必要とされるノウハウは既存商品とは異なる。学参編集者なら誰でも作れたわけではなく、ここもキモのひとつだ。

旺文社は学参などの商品開発・販売を通じ、長年子どもたちの飽きっぽさや本を開かせるハードルの高さへ向き合ってきた。子どもたちの興味を引く蓄積されたノウハウ、親や教師の悩みのツボをつかむチャンネルを活用しながら、ニーズに応える新たな商品づくりに適した人材をあてがう——。これもシリーズの成功要因だろう。