そして07年、三菱東京UFJ銀行との業務・資本提携により、一層の拡大を期待されている。

「天下の三菱がわれわれを認めてくれて、のれんを使ってもいいという。ぼくはオーナーシェフではなく、あくまで雇われ店長なので、ものを借りる相手は大きければ大きいほどいい。名前を借り、お金を借り、人を借り、何倍もテコを利かせて利息を返す。返せば評判や信頼という財産がたまり、それをもとにまた借りられる。その繰り返しです」

齋藤氏の生き方のもう1つの特徴は、山道を登りながら、常に自分のやりたいことを上に向かっていい続けたことだ。

「いい続けても全部ができるわけではなく、余計なことをいって怒られることもあります。でも憎まれはしない。大切なのは己の分をわきまえることで、やりたいと打診し続けて、いいよといわれるまでは絶対やらない。そして、OKが出たら必ず期待された以上に応える。すると割安感を持ってもらえます。

株価でいえば、誰もが自分のPER(株価収益率=株価÷1株あたり利益)を高く評価してもらいたいと思いがちですが、実力以上の割高なPERは下がるだけです。一方、割安のPERは実力を発揮すれば上昇トレンドに入れる。割安に評価されたほうがおいしいと思うべきで、次のチャンスにつながったら、また期待以上に応えていけばいいのです」

齋藤氏から見ると、多くの人がせっかくのチャンスを生かせていないという。

「世の中、9割の人は当たり前のことができていない。当たり前のことをしっかりやればそれだけでトップ1割に入れます。さらに自分なりの工夫によって期待された以上に応えれば、1割の中の1割に入れるのです」

着実を基本に、ときに大胆かつしたたかに動きながら、より大きなものを手に入れていくわらしべ長者人生。

誰もが歩幅をちょっと広げ、歩き方を自分なりに工夫すれば、大きな差を生み出せることを、現代版秀吉はその生き方で示している。

(大沢尚芳=撮影)