地方自治体の首長は早期から警戒を高めていた

4月10日、鳥取県で初の新型コロナウイルス感染例が報告され、これで感染者ゼロの県は岩手県が残るのみとなった。その前日に島根県で確認された初感染者は大阪への旅行歴がある高校生で、その後、彼女がアルバイトする飲食店を訪れた客やスタッフなど県内では17人の感染が次々と判明した。

たった1人の県境を越えた移動によりクラスター感染が引き起こされるリスクが再認識され、先がけて緊急事態宣言に指定されていた7都府県からの学生の帰省やコロナ疎開と呼ばれる人の動きに対しても、地方自治体の首長が自粛を求めるなど警戒が高まっていった。

さらに、数百万人が県内外から集まる大規模イベントが抱える潜在リスクを、官民共同の主催団体は、「もうこれ以上は地元に持ち込ませない」とばかり、封じ込める決断を早めに下した。海外では感染の中心地を各国政府が封鎖したが、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく外出自粛が要請であり強制ではない日本では、地方都市が感染多発地から人の流入を封鎖すべく動く。

政府は、緊急事態宣言による国民の行動変容により早期に感染拡大を収束に向かわせ、その後矢継ぎ早に経済回復策を打ち出したい構えだ。4月7日に政府が発表した総額108兆円の緊急経済対策には、事業者への無利子融資、中小企業や個人への現金支給などの第1段階=緊急支援策に加え、第2段階=V字回復フェーズとして、1兆6794億円の国内観光需要喚起策などの予算が計上されている。

これは旅行、飲食、興行、商業カテゴリでの消費喚起を目的とする4つのキャンペーンからなり、旅行商品購入者に50%相当分のクーポンを付与する「Go To Travel」事業(1兆3500億円)は、昨年11月に決定した台風15号・19号の被災地への旅行を割り引く観光需要喚起策「ふっこう割」の29億円を大きく上回り、観光予算では前例のない事業規模だ。

地域住民の安全を早期の経済回復や観光産業の復興より優先

しかし、先がけて緊急事態宣言が実施された7都府県だけでなく、地方でも早くから「3密」回避の外出自粛意識が幅広し、危機後の経済活動も収縮させようとしている。3月の訪日外国人数は前年同期比93%減の19万3700人と、昭和天皇崩御直後の1989年2月以来の低水準に急減。

日本各地ではインバウンドおよび日本人旅行者が姿を消し、8割接触減を目標に地元住民の客足までも遠のいて、宿泊や飲食といったサービス業はことさら窮地に立たされている。観光の目玉でもある夏祭りや花火大会の早期中止は、長期の県外からの来訪者締め出しも辞さず、住民の安全を早期の経済回復や観光産業の復興より優先することを意味する。

地元の受け止め方は複雑だ。ある新潟県の観光関係者は「私たち新潟県民は、8月の長岡大花火大会が戦後初めて中止されたことを重く受け止め、(観光復興は)夏も無理なのか、と半ばあきらめというか絶望に近い思いを持っています」と明かす。

香川県で観光バス事業を運営する会社社長も「徳島の阿波おどり(8月12日~15日)や高知のよさこい祭り(8月9日~12日)も今年は開催できないのですかね」と案じたが、その後、阿波おどりは4月21日、よさこい祭りは27日に行政トップの要請を受けて中止が決定した。